新連載!


文●高石ゆみ YumiTakaishi 美術ライター


                              
旧連載 国立新美術館とは何か? 藤田一人
                                
2003年5月〜2004年2月


                     ⇒  関連記事 『ザ・ゲート(門)、ニューヨーク、セントラル・パークのためのプロジェクト』 2003年8月
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第4回 2月9日
■公園へ

 クリストとジャンヌ=クロードによるプロジェクトの最大の特徴のひとつは、それが極めて短い期間だけ存在するということだ。76年に行われた『ランニング・フェンス』や、85年のパリでの『包まれたポン・ヌフ』といったプロジェクトは、どれも2週間という限定された期間だけ展示され、そのあとは跡形もなく撤去された。

 彼らが、“遊牧民的”と呼ぶこの特色だが、それをより顕著にするために、プロジェクト実行地での設置作業はできる限り短期間におこなうというのが、すべてのプロジェクトに共通する彼らの姿勢だ。鉄製の台座、樹脂製の支柱、アルミニウムの接合金具、そして布地などが、アメリカ各地やヨーロッパ(布地はドイツ)で製造され、ニューヨーク市内、クイーンズ区の組立工場で加工されてきたことは既にリポートした通りだが、それら資材の準備、数量が整ってもセントラルパークでの作業はギリギリまで待つことが当初から決められていた。そのギリギリのリミットはプロジェクト完成の10週間前……ちょうど12月のはじめであった。

 12月2日、まず1万5000基の鉄製台座のセントラルパークへの移動が始まった。70基程度の台座をのせた大型トレーラーが毎日数回、クイーンズの倉庫と公園内に特設されて資材置き場を往復し、約1ヶ月かけて1万5000の台座がセントラルパークへと移された。ちなみに、台座に使われた鉄の総量は、エッフェル塔に使われたそれの約3分の2にあたるという。

台座が設置された、セントラルパークの遊歩道

クリスト&ジャンヌ=クロード
『ザ・ゲート』への道のり
文●高石ゆみ YumiTakaishi 
美術ライター








台座が設置された、セントラルパークの遊歩道

■作業が始まる

 2003年1月、ニューヨーク市が、クリストとジャンヌ=クロードに『ザ・ゲート』を実現する許可を与えた際に、市当局とアーティスト側とのあいだで細部にわたった契約が締結された。その契約書の中で規定されている公園内での作業の開始日の1月3日、予定通りに第一期の作業が開始された。

 この日の朝7時前、公園内の集合場所には、100人を超える作業者、フォークリフトの運転手、交通警備員、公園側のスタッフが集まった。公園内にあるレストランの宴会場を借り切っての登録、オリエンテーションには、もちろんクリストとジャンヌ=クロードからの説明もあり、会場内は「いよいよ始まるのだ」という熱気に溢れた。

 この第一期の作業は、7500対の台座の設置だ。公園内の資材置き場から台座を運び、一対ずつ平行に置いてゆくという作業だが、1基が300キロ弱ある大物、そう簡単にゆくものではない。夜のあいだに、トラックで公園内の各所に分配された台座を、10人程度の作業員のグループがフォークリフトと手動のジャッキを使っての設置だが、対の台座が平行でなければならない。かなり繊細な位置決めが必要になる作業で、最初の数日間は、やり直さなくてはならない箇所も多かったようだ。

 また、普段の公園の使用を妨げないというのが、ニューヨーク市から出された基本的な条件の一つであり、この寒い中なんでこんなに多いのかと驚くほどのジョガーやサイクリストの安全を確保するために、各作業チームには必ず、交通整理の警備員が付くなど、念をおした作業が続けられている。

      公園内の設置地図

■完成まであと1ヶ月

 厳寒の日々が続いた、昨年とことなり、今年のニューヨークは、比較的穏やかな気候の日々が続いている。作業が始まってからも、雨の日は少なくないものの、雪は積もることはなく、設置作業は予想外の急ピッチで進んで来ていて、1月12日現在で半数以上の台座の設置が完了している。

 設置された台座の両端には、事故を防止するための赤いプラスティック製の目印が付けられているが、遊歩道の両脇に連なる、それらの表示板だけでも、すでにアートワークのように見えてしまう!

 この分でゆくと、台座の設置作業は予定よりも早く完了しそうだが、ゲートの設置を早めることはなく、その作業は、700人前後の作業員によって2月7日に開始される。インターネットを使っての募集に応じて登録をすませた作業員の中には、学生やアーティストはもちろんのこと、メトロポリタンを始めとする美術館の学芸員、雑誌の編集長、裕福なコレクターなども含まれている。雇用条件の法的規制が厳しいこの国なので、残念ながら、アメリカ市民権、永住権を持たない者の参加は実際問題として難しいことだが、永住権を持つ日本人も何人か登録をすませていると聞く。それら、アートを愛し情熱をもった人々の手で、クリストとジャンヌ=クロードの25年来の夢は、1月12日に、現実のものとなるわけだ。
(1月12日、現地のスタッフの談に基づいた文章です。)


クリスト&ジャンヌ=クロード
『ザ・ゲート』への道のり
文●高石ゆみ YumiTakaishi 
美術ライター







台座が設置された、セントラルパークの遊歩道



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