新連載!


文●高石ゆみ YumiTakaishi 美術ライター


                              
旧連載 国立新美術館とは何か? 藤田一人
                                
2003年5月〜2004年2月


                     ⇒  関連記事 『ザ・ゲート(門)、ニューヨーク、セントラル・パークのためのプロジェクト』 2003年8月
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第2回 7月22日


クリスト&ジャンヌ=クロード
『ザ・ゲート』への道のり
文●高石ゆみ YumiTakaishi 美術ライター




『ザ・ゲート』の為のドローイング。公園内に設置された場合のドローイングと、公園地図への指示が書き込んだものが一緒になっている。(c)Christo






  同上  (c)Christo







 同上  (c)Christo








 5メートルのポール






クリスト風のとあるお店のショーウィンドーディスプレイ


■プロジェクト全容のお披露目――メトロポリタン美術館個展

 ニューヨーク、セントラルパーク(縦、約4.2キロメートル×横、約1キロメー トル))全域の遊歩道に、「ゲート」(鳥居のような形をした門)を、約7500本建てる壮大なプロジェクト。37キロメートルに及ぶ範囲に設置されるおびただしい数の「ゲート」の上部からは、サフラン色の布が垂らされ、それらが風になびいて連なっていくのだ……その『ザ・ゲート』プロジェクトが、来年2月中旬に実現するのに先がけて、これまでの流れを伝える展覧会『ザ・ゲートへの道』が、メトロポリタン美術館で開かれた(4月6日〜7月25日)。

 展覧会場は、アメリカの美術、工芸を展示する「アメリカンウィング」内の企画展示スペース。その全9部屋が使われ、79年に描かれた最初のドローイングに始まる、50点あまりの構想ドローイングやコラージュの作品が展示された。また作品だけでなく、交渉過程の記録写真や、(現在進行中である)資材の製造過程の記録写真、「ゲート」を設置するプランのための地図、設計図、見取り図、さらには、設置される「ゲート」の現物も初公開され、プロジェクト全容のお披露目とも言える展覧会になっていた。

 といっても、せっかく見られた「ゲート」の資材だが、パーツの状態で展示されていたので、組み立てられた際のスケール感がわかりにくかった。実際、高さ5メートルと言われてもあまりピンとこない。その後、材料を製造加工しているクイーンズのスタジオを訪ねることができ、実際に立っている「ゲート」の見本を見せてもらった。ポールはまるで電信柱のようで、「ゲート」は想像していた以上に高かった。(ちょうどオリンピックの体操競技に使う鉄棒のようなと言って良いかも知れない……テレビで見たことしかないのだけれど。)この驚きは、来年の本番までのお楽しみということで、展覧会で完成品として見せないのは、意図的なことだったのかもしれないと思った。とにかく、こんな巨大なものを7500本も作り、精密な計算をもとに建てていくという途方もない作業を、一体どういうふうに捉えたらいいのだろう? と思わずにはいられなかった。

■実現までの25年

 さて、また展覧会へ話を戻すと、構想から現在までの流れを記録した写真はちょっと見物だった。クリストたちが市や公園管理局などとの交渉を始めたのは79年。翌年ニューヨーク市側へ交渉するも却下された時の写真。公園の遊歩道の殆ど全域を使って行うプロジェクトだということも問題視され、ネックになったのだという。前代未聞の構想なだけに、許可が得られるまでに、実に25年の歳月がかかった作品なのである。それから20年余りたち、昨年うって変わって許可が下り実施が決まった際の記者発表の場面……それらはまるでドラマのようで、あたかも映画のスチールを見ているようだった。写真に登場した当時議員だった人たちは、これらを今どう見るのか興味があったが、展覧会のオープニングには見あたらなかったようだ。たいていの場合、さんざん反対していた人たちも、実施が決まった途端に態度を変え、初めから賛成で理解があったように振る舞うらしい。特に、交渉段階で物議をかもしたベルリンの『覆われた帝国議会議事堂(ライヒスターク)』の場合、強硬な反対派だったある政治家が、プロジェクトが好評のうちに実現した途端、コロッと態度が翻ったというのは、知る人ぞ知る話である。

 『ザ・ゲート』では、ブルームバーグ市長がプロジェクトの支持を表明した。実現の可能性が出てきた2002年に行われた公園内再測定や、実物大プロトタイプを使ってのシミュレーション・テスト、地域住民への説明会にクリストたちが奔走するところ……と、記録写真でその経過が辿れるのがおもしろかった。説明会では、たとえば敷地内の地面に穴を空けるようなことがないよう、いかなるものにも影響を及ぼさないよう細心の注意が払われ、また当然の事ながら、完全に現状復帰させるといったことを説明することも重要なポイントだったと聞く。今回も、これまでの彼らのプロジェクトと同様に、展示期間は約2週間で、その間、人々が普段通りに公園を利用できることも条件の一つになっている。そして、今回もまた、使用する材料(布、鉄製ベース、アルミニウム製の接続部品、ビニール系樹脂製の支柱など)はすべてリサイクルされるよう配慮されている。

 さて、展覧会場の最初の展示室には、実現しなかったもののニューヨークで試みた、他のプロジェクトの構想ドローイングも写真で紹介されていた。『ロウアーマンハッタンの包まれたビル』、『包まれたMoMA』、『包まれたホウィットニー美術館』、『タイムズスクエアの包まれたビル』だ。

 ブルガリア生まれのクリストは青年時代をパリで過ごし、60年後半ニューヨークに移り住んだ頃から、この地でプロジェクトをやりたいと思い続けてきたという。実現しなかったこれらのプロジェクトの紹介を、最初の部屋に持ってきたところに、クリストの思い入れが感じ取れた。24年超しに許可が下りたということはもちろんだが多分それと同時に、初めての自分たちが住むこの地でのプロジェクトなだけに、「長年の夢がようやくかなった」と、喜びもひとしおのようだ。ちなみに、メトロポリタン美術館での展覧会は、意外にも、クリストたちにとってニューヨークでは初めての美術館での個展ということである。

■個展の熱気が町を“包む”

 メトロポリタン美術館はセントラルパークの敷地内、その東側の端に建っている。ちょうど、展覧会会場に隣接する回廊の壁面は、ガラス張りになっているので、遊歩道がすぐそばに見わたせてリアリティが感じられた。たった今見てきたばかりのドローイングを外の景色に重ねあわせると、『ザ・ゲート』の様子がありありと浮かび上がり、ちょっとワクワクした。プロジェクト実施期間中、実際にサフラン色の帯がたなびく様を、館内から臨むこともできるわけだ。

 この展覧会が始まった頃、巷ではちょっとした盛り上がりを見せていて、町中のウィンドウディスプレイには、(クリスト作品を真似た)椅子や机を包んで紐で縛ったオブジェがあちこちに見られた。ニューヨーク市民も、来年2月を心待ちにしているのが伝わってきた。

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