藤田一人氏による連載第二弾!
  芦屋市立美術博物館 U

美術ジャーナリスト:藤田一人Kazuhito Fujita

第1回  8月17日
第3回 11月26日
第4回 12月14日
第5回  2005年 2月22日
第6回  5月11日
第7回  5月25日
番外編(横浜美術館) 2005年8月31日
                               2003年度・第一回連載「国立新美術館とは何か?」はこちら
第2回 9月16日












美術館の“大義”
芦屋市立美術博物館 U
文●藤田一人
Kazuhito Fujita
美術ジャーナリスト








●全国に浸透する指定管理者制度


 芦屋市立美術博物館に端を発する、今日、日本の公立美術館の民間委託、独立採算へと向う流れは、元を辿れば、小泉政権の行財政改革の一環だ。官主体でやってきた公共的事業に、民間活力を導入して、市場原理に則した効率性と、現代社会の変化と多様性に応じた柔軟な公共サービスの提供を目指すというものだ。そして、その実現のために、昨年政府が音頭をとって導入したのが、地方自治体の指定管理者制度だ。

 昨年(平成15年)6月、地方自治法第244条が改正され、「指定管理者制度」なるものが制定された。その改正は、首相の諮問機関である総合規制改革会議の強い要請をうけて、行われたものだという。

 それまで、公的施設の運営・管理については、各自治体が直接運営するか、自治体が二分の一以上出資している法人、または農協、生協といった公共団体に限られていた。が、法律の改正で、自治体が指定すれば、個人を除き、民間企業やNPOを含めた多様な機関に公的施設の運営・管理を委託できるようになった。そして、これまでは、例え公共団体や自治体出資の公益法人が公的施設を運営・管理を行なっていても、その施設に対する責任と決定権はあくまで自治体が持ち、例えば、施設の利用許可や料金の設定等の条件を、管理者が決めることが出来なかった。が、指定管理者制度の導入で、自治体は、指定の管理者に多くの権限とその裁量を含めて、施設の管理・運営を委託出来るようになった。つまり、民間企業が公的施設をとおして、利益を上げることも可能になったというわけで、小泉行革ならではの民活導入に拍車をかけようということでもある。

 政府は、その改正の目的を、「公の施設に係る管理主体の範囲を民間事業者等にまで広げることにより、住民サービスの向上、行政コストの縮減等を図る目的で創設されたもので、指定管理者制度を活用することにより、地域の振興及び活性化並びに行政改革の推進につながる」と指摘している。

 言うまでもなく、芦屋市立美術博物館の民間委託という問題も、財政難の地方自治体が、コスト削減のために、小泉改革の方針に乗ったというわけだ。

 そして、この流れは、もはや芦屋市にとどまらず、全国に波及している。むしろ、美術館・博物館等の文化施設に関しては、芦屋の問題がセンセーショナルな話題となるなかで、それ以外の自治体では、指定管理者制度の導入による民間委託の方針が、粛々と進められているというのが実状だ。

 各自治体が指定管理者制度を導入するためには、各公的施設の管理者に関する具体的な規定を条例で定めなければならない。そんななかで、横浜、札幌市などが、逸早く「指定管理者の指定手続きに関する条例」を制定している。

 特に、横浜市では、平成18年9月までに、市が直営している約280、外郭団体等に体躯している約470、計750余の公的施設に関して、指定管理者制度による管理・運営に移行することを決定している。現在、磯子区のコミュニティハウスをはじめ、病院や文化センターなど、比較的市民の利用頻度の高い施設から、指定管理者の募集が始まっている。そして、いずれは、横浜美術館や横浜市民ギャラリー等の施設に及ぶことは言うまでもなく、美術館・博物館の民間委託の流れは、もはや既成の事実として動き出しているのだ。

 ただ、全国平均で収益率(歳出に対する歳入の比率)が18.7%、収益率が10%に満たない館が3割を超えるという、日本の公立美術館の現状(『産経新聞』東京版 2004年3月28日付)では、例え、各自治体が指定管理者制度を導入したとしても、そう簡単に民間企業が管理者に名乗りを上げるというのは難しいだろう。また、NPOがボランティア精神で引き受けるとしても、財政的基盤を持たないのでは、短期化での破綻が目に見えている。

 問題の芦屋市美術博物館は、平成14年度の人件費を除いた歳出が約7900万円に対し、入場料等の歳入は約800万円。つまり、収益率が10%に行くか行かないか。そして、入場者も伸び悩み、毎年2万人程度。単純計算して一日平均50数人という状況が続いている。まさに、昨今の行財政改革の大波のなかで、行政サイドとしては、決して放置しては置けない存在であることは確かなのだ。










美術館の“大義”
芦屋市立美術博物館 U
文●藤田一人
Kazuhito Fujita
美術ジャーナリスト
































美術館の“大義”
芦屋市立美術博物館 U
文●藤田一人
Kazuhito Fujita
美術ジャーナリスト




































美術館の“大義”
芦屋市立美術博物館 U
文●藤田一人
Kazuhito Fujita
美術ジャーナリスト



●危機的な芦屋市財政


 つまり、ことは美術、美術館をはるかに超えて、行政改革という政治問題なのだ。
 芦屋市が、芦屋市立美術博物館運営に関して民間委託を模索し、2006年度までに委託先が見つからない場合は、施設・コレクションの売却、もしくは休館という方針を打ち出した理由は、言うまでもなく、市の財政危機に対する行政改革の一環だ。

 ことの始まりは、2003年10月31日に発表された芦屋市の「行政改革実施計画」だった。
 芦屋市は、1995年の阪神大震災からの復興にかかる膨大な財政負担に相俟って、長年に及ぶ景気の低迷により、極度な財政状況が悪化の一途を辿っている。当然これまでも、震災復興に伴う財政難克服のために、「行政改革緊急3ヵ年実施計画」「第3次芦屋市行政改革大綱」「行政改革2ヵ年実施計画」といった計画が立てられ、緊縮財政による行政改革の取り組みが行なわれてきた。しかし、それでもなお、財政は悪化の一途を辿り、このままの情勢では、平成20年(2008)度には、財政再建団体への転落が必至の状況だというのだ。

 そんななかで、2003年春の選挙で当選した山中健市長のもと、これまでの財政再建策を見直して、より一層徹底した緊縮財政と機構改革が迫られることになったというわけだ。

 そこで、発表された中山市長による「芦屋市再建緊急メッセージ」なるものが、発表された。それを読むと、一種、切羽詰った行政側の悲鳴が聞こえてくることは確かだ。

 同メッセージには、現在芦屋市の危機的財政状況と、そこからの脱却のための行政側のシナリオが、切々と説明されている。

 まず、現在の市の財政状況について。
 「平成14年度決算では、経常収支比率107%、公債比率28.4%、起債制限率22.5%となっており、いずれの数値も前年度を大幅に上回る悪い数値となっております。
 経常収支比率は、70〜80%が適正とされていますが100%を超えるということは、市税収入など、毎年度、経常的に得られる収入では、人件費、扶助費、公債費(借金の返済)などの経常的な支出を賄えていないことを表しています。市では、平成12年度から経常収支比率が100%を超える状況が続いており、毎年基金(貯金)を取り崩し、赤字地方債(借入金)の発行などによって財政運営を行なっていきます」と。

 このように述べられた芦屋市の財政状況は、どれだけ借金まみれになっているか、ということなのだ。さらに、震災以降、復興事業で一時は回復した市の税収も、近年は減少の一途を辿り、今後急速な回復の兆しもない。このままの状態が続くと、税収の落ち込みに加えて、市債による借金の返済金の増加が財政を圧迫して、市の財政は、絶体絶命の危機状況に陥るという。そして、それを決定付けるのが、地方自治体の破産を意味する財政再建団体への転落だ。それを回避するためには、徹底した緊縮財政と行政のリストラは欠かせない。
 そうして、作成されたのが、平成15年度から24年度まのでの「行財政改革実施計画」であり、その基本方針の一つに掲げられた、「民間活力の導入を積極的に推進する」という方針のもとに、美術館博物館運営のみ直しと民間活力導入の検討が盛り込まれた。

 勿論、その対象となったのは、美術博物館だけではない。同館近隣で、ともに芦屋市文化振興財団が管理・運営してきた谷崎潤一郎記念館も同様で、そこには市の外郭団体である財団の解散が念頭に置かれている。その他に、幼稚園の廃園や市立保育園、体育館、図書館と言った、正直なところ、美術館など比べものにならないくらい、市民生活に密着し、影響も大きい施設にも、指定管理者制度による民間委託に地域ボランティアによる運営の推進を目指している。
 さらに、同行政改革実施計画に示された項目をつぶさに見ていくと。例えば、歳入の項目では、「平成16年度から施設敷地内に駐車・駐輪をする職員から使用料を徴収する」とか、「市の刊行物に広告を掲載して広告料をとる」とか。また、歳入の項目でも、可燃ゴミの収集について、現行週3回を週2回とする」とか・・・・・・。とにかく、涙ぐましいと思えるほど、こまごまとした倹約と収入増の方法が並んでいる。

 そういった市が訴える財政的危機状況を考えると、芦屋市美術博物館の指定管理者制度導入による運営・管理の民間委託という処置も致し方ないと言えなくはない。

 ちなみに、美術博物館を民間委託して軽減される市の予算は、年間5800万円。この額は、図書館や体育館、海浜公園プール、市民センターといった同様に民活導入候補となっている公的社会教育施設のなかでも、大きいものだ。市の行財政改革の見地からすれば、これにメスを入れざるを得ない、というところだろう。

 しかし、美術館と美術関係者にとっては、この行革案が、行政による文化の軽視、切捨てとしか映らない。そして、同時期に、名古屋財界の肝いりで建設された名古屋ボストン美術館の閉館発表も重なり、同様に財政難下にある地方自治体の公立美術館にも波及しかねない、まさに“美術館の危機”の象徴として、“芦屋”の問題は、全国的にクローズアップされることとなった。

 「兵庫県芦屋市立美術博物館が存続の危機にたたされている。財政難の市は、館の民間委託を模索、委託先が見つからない場合は売却か、あるいは休館とする方針だ。美術関係者は『税収源を理由に公立美術館が消えるとすれば、前代未聞だ』と話している。・・・・・・」(『読売新聞』大阪本社版・夕刊 2003年11月14日)

 等々、新聞・雑誌は、さかんにこの問題を取り上げた。そして、問題の核心が、芦屋市の行財政改革から、“公立美術館のあり方”や“美術館の公共性とは何か”へと、移っていくことになる。


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