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国立新美術館とは何か?
            
〜あまりにも“日本的”な美術の現実

               
(追記) 国立新美術館、使用団体決まる!

               美術ジャーナリスト:藤田一人
Kazuhito Fujita

第9回 ー追記ー 2005年7月29日 
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国立美術館とは何か?
あまりにも“日本的”な美術の現実
文●藤田一人

























国立美術館とは何か?
あまりにも“日本的”な美術の現実
文●藤田一人


















国立美術館とは何か?
あまりにも“日本的”な美術の現実
文●藤田一人
























国立美術館とは何か?
あまりにも“日本的”な美術の現実
文●藤田一人

















国立美術館とは何か?
あまりにも“日本的”な美術の現実
文●藤田一人































国立美術館とは何か?
あまりにも“日本的”な美術の現実
文●藤田一人



■低価格に落ち着いた使用料

 
地下鉄千代田線乃木坂駅の青山墓地方面5番出口を左に折れると、工事中のフェンスの向こうにガラス壁がウェーブする巨大建築が姿を見せる。それこそ、現在建設中で、2007年の春に開館予定の国立新美術館だ。同館が開館すると、日本でも屈指の大規模な美術館となり、主に美術団体による公募展会場とともに、新聞社等が主催する大型企画展会場として機能する。まさに日本ならではの美術館となる。2002年9月に着工した建築が、ようやくその全貌を現すなか、美術館としての活動も、いよいよ本格的に動き出した。同館の最重要機能である公募展の使用団体と日程が、ようやくこの(2005年)5月に決定。2007年4月3日から、東京都美術館(以下、都美術館)に準ずる美術団体公募展の活動拠点として出発することになる。

 ところで、これまでの経緯は、昨年(2004年)8月、同館施設の貸与条件が決まり、報道機関等に発表された他、9月28日と29日に各美術団体に対する説明会が行なわれ、利用団体への勧誘活動が開始された。12月16日より「平成19年度国立新美術館展示室(公募展用)及び野外展示場の使用に係る募集要項」と使用申請書が、使用希望団体に配布され、2005年2月1日から28日まで、書留郵便により使用申請を受け付けた。

 美術団体等に公募展会場として貸し出されるのは、同館の地上4階、地下1階の延床面積、約4万8千uの内、地上1〜3階の各1千uの展示室10室と、各315uの彫刻の野外展示場4区画。その他、作品整理・審査室、作品収納室、主催者控室なども加わる。展示室に関しては、一室1千uを2週間単位で93万7500円、延長料金が1週間単位で、45万円。最長6週間まで。また、野外展示場は、2週間単位で、12万5千円。延長が一週間単位で6万円となった。

 ちなみに、2004年度における都美術館の使用料金は、すべて1日単位で、760uの展示室が4万9500円。504uの第一彫刻室が1万7300円、468uの第二彫刻室が1万7100円等。

 貸与条件が違うため、一概に比較することは難しいが、あえて国立新美術館と都美術館の使用料を比較すると。国立新美術館の場合、毎週火曜日が休館日で、実質展覧会は12日でも2週間分の料金を払わなければならない。それに対して、都美術館は第三月曜以外休館がなく、まるまる2週間展覧会を開催出来る。そこから、各団体が出費する両館の一日1u当たりの経費は、国立新美術館が約67円、東京都美術館が約65円ということになる。つまり、料金体系に関しては、当初美術団体が懸念されていたように、都美術館の現状に対して、大した値上がりにはならず、都内の私立美術館やギャラリーに比べて、圧倒的な低価格に抑えられた。そのことが、各団体にとっては、国立新美術館に触手を伸ばしやすくなったことは間違いない。


■明暗分かれた各団体

 そんななかで、期限の2005年2月28日までに申請を出したのが、計127団体。これまで都美術館を使用してきた団体はもとより、上野の森美術館や銀座のセントラル美術館等で展覧会を開催してきた団体も多数応募した。国立新美術館準備室によると、「申請の数は予想をはるかに超えるものだった」と言う。

 申請については、各団体が、使用申請書に希望する展示室(展示場)の室数と使用会期を第3希望まで記す。その場合に予定される展示作品数等を含めた展示計画に、過去の開催状況や収支決算書も提出し、これまでの公募展としての実績を示す。そうして、美術館側が、申請のあった団体のなかから、全国的に活動を展開し、毎年定期的に開催されている公募展を優先して利用調整を行い、その後、特定会員のみで開催される団体展、さらに毎年開催でない団体展の順に調整が行われた。

 利用調整は、使用室数・区画が多い団体から会期を割り振る。希望会期が重なった場合は、申請した部屋数が多い団体が優先され、条件が同じ場合は、会期の移動や短縮などを各団体館で調節の後、折り合いがつかない場合抽選となる。つまり、より多く部屋数を申請した方が、スペースを確保しやすいということになる。早い話、展示室全10室、野外展示場全4区画を総て申請した団体は、優先的に会場を確保出来る可能性が高かったというわけだ。

 こういった条件が提示されたということからか、現在、都美術館で公募展を開催している各団体は、現状よりもかなり広いスペースを申請した団体が多かったことは確かだ。

 そうして、単独で展示室全10室の使用を申請したのは、全6団体。そのうち、2団体は他団体と重なり、日程の調整がつかなかったということだが、国画会、毎日書道会、二科会、日展、独立書道団の4団体は、全会場を確保した。日展は都美術館でも公募展展示室全室を使用しており、まずは順当といえる。それでも、彫刻の野外展示場は使用しないため、展示面積は都美術館よりも狭くなる。これでは、出品者全体の7割近くを占める“書”の展示スペースが不足したままで、第5科(書)の入選率1割を切るという現状を解消できない。そこで日展は、公募展展示室以外の企画展示室2室4千uも合わせての利用を新美術館側に交渉していくのだという。その他、二科会と毎日書道会に関しては、毎年、都美術館と同時に、近隣の上野の森美術館を使用して公募展を開催してきたことから、新美術館を全室使用することで、会場を一本化出来、かつ都美術館の約7倍といわれる上野の森美術館の使用料が浮く分、経済的にも願ったり叶ったりというところだろう。そして、もう一つの独立書道会にしても、毎年、1月開催の都美術館での公募展以外に、銀座のセントラル美術館での会員展や新宿の朝日生命ギャラリーでの展覧会も開催しているために、国立新美術館に一本化することの利点は大きいのだろう。

 そんななか、今回の申請で最も注目されたのは、国画会の動向だったと言っていい。これまで、洋画、版画、彫刻、工芸、写真の4分野からなる同会は、例年4月後半から5月初めにかけて、ちょうどゴールデンウィークをはさんで都美術館で公募展を開催。都美術館における展示面積は3040u、それに対して国立新美術館に申請・確保したスペースは、展示室10室1万uはもとより、野外展示場4区画1260uも加え、計1万1260u。つまり、現状の約3.7倍になる。それは、料金的にみても、4倍近い増加となる。経済的な負担増は相当だが、そこには、是が否でも、国立新美術館の会場を確保したいという同会の意気込みは感じられる。そして、国立新美術館の会場を確保することにより意欲的であった団体は、多かれ少なかれ、同様の傾向が見てとれる。

 現在、都美術館を使用している団体にとっての長年の課題は、出品作の増加や大作化傾向のなかで、都美術館の会場が手狭になりながらも、同館が満杯のため会場を広げることができず、入選作も増やせないまま、窮屈な展示を強いられてきたことだった。それが、都美術館に代わる国立の展示施設建設の要求となってきた。それだけに、各団体が都美術館の現状よりも、より広いスペースを申請したのは、単に確実に会場を確保しようということだけではなく、彼らの問題解決のためには当然のことだったのかもしれない。
 そうして、今回、国立新美術館に応募した127団体のうち、3室3千uを申請した43団体で31団体が会場を確保。それを含めて、申請が通ったのが61団体、競争率が約2倍という結構高くなったことは確かだ。これまで都美術館で公募展を開催してきた団体のうち、先の日展、二科会、国画会等の他、二紀会、独立、新制作、春陽といった有力団体は、従来の2〜3倍の会場を確保。しかし、創画会、モダンアート、主体美術、一水会、日本版画協会といった団体は涙をのんだ。

 しかし、国立新美術館の会場を確保した団体も、そう喜んでばかりはいられない。確かに、より広い展示スペースを求める声は、各団体にあったとしても、多くの場合、従来の2倍ないしそれ以上の展示面積拡張の必要性が当座どれほどあるだろうか。国立新美術館の展示室使用料が都美術館の現状とほとんど変わりない、低価格に抑えられ、各団体が資金的には無理のない運営が確保できると安堵したのも束の間、使用面積を増やせばそれだけ料金も上がり、従来の2倍、3倍の面積を確保するということは、経済的負担もそれ相応に増えるということになる。今日、各美術団体も経営状況に余裕があるとはいえないなかで、増加する経費の負担をいかに賄っていくのか。今後、各団体にとっても悩みは大きいに違いない。


■都美術館と国立新美術館との共存

 ところで、今回の国立新美術館の会場申請にあたって浮かび上がったのは、美術団体同士の連携のなさだろう。例えば、都美術館の主要な利用団体で結成されていた美術団体懇話会などでも、国立新美術館の問題はさかんに話し合われ、さまざまな要求も出してきたという。しかし、いざ新美術館の会場申請となると、結局のところ美術団体間での調節がつかず、というよりも互いに調節するという意識すらなかったというこという。少なくとも、多くの団体は都美術館で同時期に開催している団体と交渉をして、ほほ同時期に同条件で都美術館から新美術館に移れるように調節することはなかったようだ。それ以上に、各団体が「バスに乗り遅れるな」とばかり、会場確保を有利に運ぶために、できるだけ多くのスペースを申請する方向に向かったと見られる。

 今回の申請状況に関して、国立新美術館設立準備室・利用サービスの西田佳二係長はこう言う。

 「国立新美術館の公募展展示室の貸し出しに関しては、正直なところ、埋まるかどうかが不安で、最後は、私たちが各団体に営業に廻らなければならないのではないか、とおもっていました。が、予想をはるかに超える応募申請があってほっとしました。そんななかで、確かに多くの団体が、現状よりもかなり広いスペースを申請されたなというは、正直な印象でした。そこで、4室4千u以上申請された各団体には、本当にそれだけのスペースが必要なのか? と電話で確認しました。その場合、まず展示計画を聞くのですが、すると各団体とも、それぞれ国立新美術館に移った場合の展示計画を立てられていた。例えば、入選点数を増やすとか、これまで、一作家一点入選だったのを複数入選も出したい。また、3段掛け、4段掛けの展示をもっとゆったりと展示したいとか。各団体が各々計画を持っておられた。私どもとしては、できる限りそれを尊重しなければなりません」

 それに対して、今回、国立新美術館の会場を確保できなかった団体はというと、今後、都美術館の契約更新に際して、これまで同時期に国立新美術館移転組の開いたスペースを、できるだけ確保しようと考えていくことだろう。ただ、国立新美術館の抽選に外れ、結果的に都美術館で公募展を続ける団体にとって、伝統ある日本画の有力団体である日本美術院(院展)が早い段階で国立新美術館に移らず、都美術館に残ると決定したことは、不幸中の幸いであったと関係者の多くは言う。

 国立新美術館に関する様々な条件が決まる以前から、展示室の貸与条件もさることながら、各美術団体の関係者のなかには、「日展をはじめとする有力団体が一斉に国立新美術館に移った場合、都美術館に残った団体は二流団体という印象を人々に与えかねない」という強迫観念が強かった。少なくとも、それに関しては、院展が残ることで、都美術館に残るのが二流団体だという印象はなくなったと言える。そんななかで、都美術館の使用料も値上がりする可能性は高いが、これまでの実績や地の利のある都美術館で引き続き公募展を開催し、さらに同会期でスペースが広がるということならば、都美術館に残ったほうが結果的にはいいのではないかという意見も多くある。

 それに関しては、国立新美術館も、「もともと、国立新美術館に都美術館で開催されている公募展がすべて移ることは不可能ですし、都美術館には歴史と伝統がある。私たちとしては、どれだけ都美術館と共存共栄の関係を築けるかを考えています」と。

 ただ、どちらにしても、会場の利用料を含め公募展開催の経費が上がることは避けられない。そこで、各団体の問題はいかにその資金を確保するかということになる。その場合、とにかく避けられないのが、各団体の会員会費の値上げだろう。例え、展示面積が増したからと言って、急に出品者が増えるということはないだろう。一般の出品料を上げることも考えられるかもしれないが、そうすると、出品者が減る可能性もあるという。まず、確実に取れるところから取るといういみでは、会員会費を上げるということが、まずありきだろう。

 特に、国立新美術館に移る団体は、都美術館とは展示方法も、絵画作品に関しては、従来の穴あきボードから、ワイヤーで吊ることになると、作業時間が増えることは確実だということ。さらに展示作品を増やすことで、展示設営経費の増加は避けられないという。事実、自由美術協会は、2005年7月の会報「自由美術ニュース」で「会場費のみの増が、178万5千円です。単純に会員数で割ると5100円になります。節約は当然のこととしても、諸経費の増を考えると、会費値上げは避けられない状況です」と訴える。

2007年からの国立新美術館の開館が、様々な意味で、日本の美術団体の大きな転機になることは確かだ。それが各団体にとっていい方向に向かうのか、それとも悪い方向に向かうのか。それは未知数だ。新天地を得たからといって、それを有効に活かせるとは限らない。問題は、従来同様、公募展を開催すればいいというのではなく、各美術団体が、現在の会員や出品者のために、いかに有意義な存在理由を持ち、その可能性を示していけるのか。都美術館と国立新美術館の共存時代に入って、美術団体は、公募展離れが進む時代の流れに対して、一種存亡危機をも孕んで、日本的な等身大の美術のあり様を問うことになる。

国立新美術館とは何か?

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