新連載

         
            
〜あまりにも“日本的”な美術の現実

         *第5回からはタイトルを国立新美術館とは何か?に変更しました。

               美術ジャーナリスト:藤田一人
Kazuhito Fujita

第2回 5月21日























ナショナル・ギャラリー(仮称)
とは何か?
あまりにも日本的な美術の現実
文●藤田一人






















ナショナル・ギャラリー(仮称)
とは何か?
あまりにも日本的な美術の現実
文●藤田一人





























ナショナル・ギャラリー(仮称)
とは何か?
あまりにも日本的な美術の現実
文●藤田一人

■玉虫色の“理想的ナショナルギャラリーの姿”

 
そんな協議をとおして、平成8年3月、ナショナル・ギャラリーの基本構想なるものが纏められ、その後、調査委員会がほぼ同メンバーで「新しい美術展示施設に関する基本計画検討協力者会議」となって基本計画の検討へと進展。平成11年3月に同会議が「新国立美術展示施設(ナショナル・ギャラリー)(仮称)基本計画」を作成。そして、同年9月には、それを具体化するために平成11(1999)年同調査委員会を踏まえ、新たなメンバーを加えた「新国立美術展示施設(仮称)設立準備委員会」が設置。さらにその実現への具体的な内容を詰めていく専門委員会として「同管理運営専門委員会」と「同施設整備専門委員会」が発足。同年その基本設計費として約8000万円の予算が付いた。
ところで、その基本構想の概要は、「21世紀の美術創造活動の拠点」と銘打たれ、以下のような内容になっている。

1. 目的、機能

近年の美術活動は、公募展等をはじめとして美術創造活動が活発になってきているが、全国的な公募展を開催できる施設が少ないなど、多くの問題が生じている。
 新国立美術展示施設(ナショナル・ギャラリー)(仮称)は、美術への関心の高度化、美術活動の活発化、多様化、国際化に対応するため、当面緊急の課題となっている全国的公募展や大型国際企画展などの利用に供するものとし、併せて、国内外の展覧会情報などの収集・公開や教育普及活動を行なう。

2.名称

当面、「新国立美術展示施設(ナショナル・ギャラリー)と仮称する。

3.施設

上記の目的を達成し、その機能が十分に発揮できるような施設とするとともに、急速に進展する美術活動にも将来対応できるように配慮する。
〔展示室、野外展示施設、審査室、作品保管施設、搬入・搬出施設、情報資料室、教育普及施設、サービス施設など〕

4.建築場所
新国立美術展示施設(ナショナル・ギャラリー)は、我が国を代表する美術展示施設であり、我が国の美術創造施設の拠点として、交通の便利性、快適性等を考慮に入れることが必要である。

 以上、いかにも官僚の作文らしい、玉虫色の理想的ギャラリーの姿を書いている。
 ちなみに、この頃には、建設候補地が六本木の東京大学産業技術研究所移転後の跡地が挙がり、ほぼ決まっていたという。他にも候補地はあったのだろうが、総額約380億円という大プロジェクトではあっても、そのために新たな土地の購入予算までは取れなったというのが、正直なところだろう。そこで、同じ文部省所管の土地が都内の中心地に見つかったというのは、何より渡りに船だったわけだ。
 そうして、設立準備委員会や両専門委員会での協議の末、平成12年3月文部科学省が同施設の建築設計を黒川紀章と日本設計に委託することを決定。平成14年1月に設計案が纏り、予定どおり港区六本木で建設工事着工の運びとなった。

 


■出遅れるソフト面

 このように、日本の公共事業にとって常道のハード、箱物先行の形で進むナショナル・ギャラリーだが、一体、ソフトつまり運営の面はどうなっているのだろうか。

 今年の4月1日に京橋の東京国立近代美術館フィルムセンター内に「ナショナル・ギャラリー(仮称)」設立準備室が開設され、学芸員など何人かの職員が勤務している。しかし、肝心の館長人事は今秋決定とのこと。また、具体的な内容についても、例えば美術団体に対する貸し出し条件や企画展の方針なども未だ決まっていない。決まってはいない、というよりも、それを所管する文化庁自体が、日本の公募美術団体の実態や運営状況というものをしっかりと把握し、明確なビジョンの下に国立の美術展示施設なるものを計画したのではないと言うことが何より問題だろう。

 文化庁が美術団体の実態をよく理解していなかったと思われるのは、例えば、ナショナル・ギャラリーの建設が決まり、調査準備研究会の委員やそれが発展した形の設立準備委員会、さらに管理運営専門委員会、施設整備専門委員会の美術団体から選ばれたのだろう美術家の委員は、法人格の美術団体の幹部ばかりなのだ。勿論、財団法人の日本美術院や社団法人の日展、二科会などは確かに伝統ある大手団体だが、主要美術団体が全て法人であると言うわけではない。むしろ、主要美術団体でも法人ではなく、任意団体であるところは結構多い。例えば、独立美術協会や新制作協会、国画会といった有力団体はいずれも任意団体だ。

 また、文化庁は基本計画が纏った平成11年(1999年)頃から貸す対象となる美術団体に対する現状での妥当な条件等の調査を開始。そんななか、美術家の職能組合である日本美術家連盟や東京都美術館で公募展を開催している17の美術団体からなる美術団体懇話会を対象に、アンケートや説明会などが行なわれてきたという。

 そこから連想される文化庁の公募美術団体の認識とは、絵画(日本画、油画、版画)と彫刻を主にし、東京都美術館で展覧会を開催している団体ということになるだろう。そこには例えば、毎秋日本橋三越を皮切りに<伝統工芸展>を開催している日本工芸会や松屋で<日本クラフト展>を開催する日本クラフトデザイン協会というような有力工芸団体の存在が考慮されていないような気がして仕方がないのだ。

 芸術・文化を対象とするのに、最も求められるのは、各々の価値観と位置付けの認識だろう。日本の公募美術団体の新たな拠点となり、その活動の振興を第一義とすべき「ナショナル・ギャラリー(仮称)構想」であるのなら、何にも増して、日本の美術団体とそこで活動する作家達の実情把握が重要な課題だ。が、どれほどそのことに意識が払われているだろうか。

 ある意味、ナショナル・ギャラリーが成功するためには、ひたすら欧米型を指向してきた日本の美術館の理想とは異なる、日本独自の新たな概念と価値観をその職員達が確立しなければならないとも言える。

 →第1回

 →第3回

 →第4回

 →第5回

 →第6回

 →第7回

 →第8回

 追記
2005年7月



 参考写真
ナショナル・ギャラリー(仮称)とは何か?

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