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new 2007.5.9
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〈VOCA展2007〉

静けさ漂う新たな具象表現
文●松浦良介 Ryosuke Matsuura
「てんぴょう」編集長
■VOCA展2007年
3月15日〜30日
上野の森美術館
上野公園内
電話03−3833−4191

 
3月15日〜30日東京・上野の森美術館で〈VOCA展2007〉が開催された。今回は36名の推薦委員から推薦を受けて出品された36点が、高階秀爾(大原美術館館長)、酒井忠康(世田谷美術館館長)、建畠晢(国立国際美術館館長)、本江邦夫(多摩美術大学教授・府中市美術館館長)、宮崎克己(美術史家)の五氏による選考委員によって、各賞の選考が行われた。
 大賞であるVOCA賞には山本太郎、VOCA奨励賞に池田光弘、傍嶋崇、佳作賞に田口和奈、中岡真珠美の各氏が選ばれた。賞決定後各美術館が選考する大原美術館賞に、樋口佳絵、府中市美術館賞には山口晃の両氏が選ばれた。
山本太郎  「白梅点字ブロック図屏風」(VOCA賞)

 山本太郎『白梅点字ブロック図屏風』は、「画面右上隅から下方にのびて、途中で反転する梅樹の枝ぶりは、光琳の『紅白梅図屏風』の白梅を思い出させるし、杖と衣服の袖によって暗示される盲人の姿は、能の舞台や観山の作品に描き出された弱法師の物語に見る者を導く…(中略)…きわめて機智に富んだパロディと言ってよい」(高階修爾「選評」)など各選考委員から高評価を得た。
 自らの作品を「今現在の日本の状況を端的に表現し、ニッポン独自の『笑い』である諧謔を持ち、ニッポンに昔から伝わる絵画技法によって描く絵画」と定義し“ニッポン画”と呼ぶ山本氏は、作品内ももちろんだが、発言でも文章でも何かを主張することを極力避けてきた現代の日本の美術では珍しい存在だ。VOCAは回を増すごとに静かな作品が増えているので、余計にその存在感は目だったのではないだろうか。
また建畠氏は、高階氏の「パロディー」という見解を認めつつ、さらに「しかしそれが挑発的なアイロニーを感じさせないのは、作者が過去と現代のモチーフを純然たる記号的イメージとして“カット・アンド・ペースト”してみせている」と、その現代的側面にも注目している。
石井礼子 「大きくなりたい(麺好き)」

 しかし、単に日本画の枠の中だけでの新しい表現、というだけでは受賞には至らなかったわけで、その点について本江氏が「最大の強みは、弱法師や伝統とは無縁に、これをモダニズムというべきか、純粋に色とかたちの存在感のみで成立しうるところにある、とはいえるだろう」と、その絵画としての完成度を評価している。この評価基準は、特にVOCA賞受賞に関しては初回から根底にあると思える。
 VOCAを振り返ってみれば、この「純粋に色とかたちの存在感のみで成立しうるところにある」という作品が、受賞作品、出品作品の主流であった。宮崎氏は「『ペインタリー』であるような絵画、つまり豊かな色彩を流動的な筆によって定着させた絵画が、かなり目立った存在であった…(中略)…しかし今回の展覧会では、この系譜は、かなりの少数派になっている」(“はじめての選考を終えて”)と述べ、建畠氏も「広い意味での具象」作品が多くなっているとし、そういった状況を「映像と絵画の相互的な関係が新たな意味をもちつつある時代なのである」としている。
石井礼子 「大きくなりたい(夢の中)」

 では、その具象作品の特徴は、何であろうか。建畠氏が述べたように、映像との関係は無視できない。その点において私は、つるっとしたモニター画面の質感を再現しようとする画家の執着心を感じる。どんなにモチーフを多く描こうとも、色彩豊かにしようとも、絵の具等の物質感や筆致などは極力排してある。綺麗に仕上げられたマットな表面を見てると、まるで大きなモニターを思わせる。その行為は描く、というよりは塗ると言ってもいいかもしれない。むしろ「ペインタリー」と言われる筆致と色彩のみの抽象作品のほうが、饒舌に感じてしまうほどだ。
 今回はその“静けさ”をひときわ感じたので、作品から“ノイズ”を感じられるものには自然と注目した。
 石井礼子『大きくなりたい(麺好き)』『大きくなりたい(夢の中)』には、画家の日常生活にある、見逃しても当然のようなノイズを積極的に作品化していた。麻紙に墨で描くというシンプルなものだが、画家が見たものをどれ一つこぼすまいと描き込まれた日常風景は、単色なのに賑やかさを感じさせるユニークなものであった。
 ほかもう一点。會田千夏『katari‐jima 2006.11』。無数の細い線が滲んだ色の塊のようなものから、大きくとられた余白に向かってうごめき、何か大きなイメージが生まれる予感を思わせる。
 平面という言葉のもとに写真はもちろん、多種多様な作品を推薦させようとしているVOCAだが、やはり流行の反映は免れない。しかしそれがゆえに、前述した作品の存在が重要になってくるのだ。

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