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VOCA2006
――華やかさの芽生え




文●松浦良介
Ryosuke Matsuura 「てんぴょう」編集長
■VOCA展2006
3月15日〜30日
東京・上野の森美術館
台東区上野公園1-2


 現代の絵画(平面)の状況を伝えると共に、若手美術家の登竜門としての存在をすっかり定着させた〈VOCA〉の2006年度展が、3月15日〜30日東京・上野の森美術館で開催された。

 日本各地の美術館学芸員、新聞記者等の推薦委員37名によって推薦出品された作品を選考したのは、高階秀爾(大原美術館館長)、酒井忠康(世田谷美術館館長)、建畠晢(国立国際美術館館長)、本江邦夫(多摩美術大学教授・府中市美術館館長)、松井みどり(美術評論家)、南雄介(国立新美術館設立準備室主任研究官)の六氏。

 大賞であるVOCA賞には小西真奈、他VOCA奨励賞に佐伯洋江、ロバート・プラット、佳作賞に兼 未希恵、木紗恵子が選ばれた。また、大原美術館賞には蜷川実花、府中市美術館賞に木紗恵子。なお、この2賞は選考委員の審査後に、各美術館が選ぶとのこと。
小西真奈 「キンカザン1」(VOCA賞) 小西真奈 「キンカザン2」(VOCA賞)

●豊作?不作?

 今回の全体的な印象について、「全体としてきわめて質の高い粒選りの力作というのが最初の印象である。(中略)会場には豊穣な多様性が溢れていると言ってよいであろう」(高階秀爾“選評”「VOCA2006」図録、以下出典は同じ)という高評価もあれば、「昨年と同様、今年のVOCA展も全体としてはどうにも不作、というのが偽らざる感想である。ただこうした不作の印象が、作家たちの無為無策によるものとは即断しがたい」(本江邦夫“抵抗について”)という厳しい見方もあった。

 また、「絵画の傾向は明らかに具象を中心に展開している」(建畠晢“あいまいさと具象”)、「具象と抽象の間の融合と相互作用がますます進みつつある」(松井みどり“VOCA2006所感”)と、VOCA開催当時の絵画の傾向とは変わってきたことを指摘する意見もあった。それを象徴するように、今回の受賞作は全て具象表現のものであった。

●映像的絵画の定着

 近年絵画は、写真をもとに描き始めるなど映像的な要素をどのように取り込むかが流行。もちろんVOCAにもそのような作品は、今回に限らず多く出品されている。VOCA賞受賞した小西の作品『キンカザン1』『キンカザン2』も、その様な作品である。「第1回投票時から過半数の委員の支持を受け、その後の議論の過程においてもつねに高い評価を得て、順当に受賞が決定」(高階秀爾)とのことで、各選考委員がそれぞれに評価をしたようだ。

 映像的、といえば橋爪彩『少女都市』も多分にそうである。
橋爪彩 「少女都市」

では、小西との違いはどこにあるのであろうか。

 映像的な表現、というとまるでファインダーで切り取ったような構図、映画のカメラワークのような視点といったものと、素材感を極力消しまるでモニターやスクリーンを見てるようなツルッとした仕上がりを目指すものがある。

 小西の作品は、前者の要素が強く、橋爪は後者である。特に小西の場合、油絵具の質感を微妙に残す『キンカザン2』と、それに対するように構図や視点を強調する『キンカザン1』の組み合わせが、近年の絵画の流行の全てを凝縮したようであり、高評価につながったのではないかと思う。

 ただこのような表現がどんどん洗練、完成されて行くにしたがって絵画から消えていったものがある。それは、躍動感やスピードが伝わるような“筆致”、さまざまな素材が織りなす色の“華やかさ”である。この2つの要素は、絵画が長きにわたり人を魅了してきた大きな要素だ。これだけ多くの作品が出現しても、“絵画の危機”という言葉がここ数年消えないのは、それらの消滅が原因であると思う。

●賑やかさ、華やかさとしての日本画

 今回のVOCAで一番注目したのは、消滅したと思われた先述した2つの要素が、また戻ってきたことである。具体的には、日本画の表現様式を伴って現れたきたのだ。
木紗恵子 「untitled」(佳作賞、府中市美術館賞)


 まずは佳作賞・府中市美術館賞受賞の木紗恵子の『untitled』。「樹木画とでも称すべき、流動感のある画面である。(中略)琳派にも通じるこの画家のユニークな資質が見て取れる」(建畠晢)、「光沢と膨らみを持ったウレタン樹脂という素材と、日本画的な『和風の』画面とが共存する、ちょっと不思議な味わいを持ったもの」(“選考にあたって考えたこと”南雄介)、「和服の模様を見るような華やかな装飾平面」(松井みどり)など、その独自の日本画的要素の取り込みに好評価が目立った。

 日本画科出身の兼 未希恵の作品にも、「デザイン的である一方、黒の面の質量感や、草花の水平の並列が生む断続的リズムが呼び起こす持続の感覚など、知覚的空間的な効果も強かった」(松井みどり)、「日本画の伝統的な表現法を充分に学びながら、その特質を清新な感覚で受け継いで、新しい領域の開拓に挑んだ意欲的な作品」(高階秀爾)と、高い評価があった。
兼 未希恵 「嵐ノ上ハ深ク静カナ空」(佳作賞)
 欧米の潮流に敏感に反応し洗練されていく絵画が、どこか抑圧された静けさを強めるのに対し、賑やかさ、華やかさを日本画の表現形式をもって絵画に呼び起こした点が、両者の作品に共通することだと思う。
 最後に、ここ数回のVOCAを見て思ったことを。

 それは冒頭で述べたように、VOCAのような現代美術の領域で具象表現が増えてきている現状を、公募団体展の方はどのように見てるのか、ということである。既に、現代美術において、奇抜さのみを目論んだ理解に苦しむような突飛な素材、技法は皆無といってもいいだろう。ならば、VOCAに推薦出品されるような作品の多くを、内包することで求心力を取り戻すことができるのではないか。実際、多くの作品がどこの団体展に並んでも、なんら違和感はないし、高い評価も得るだろう。

 数としては依然として大規模な公募団体展が“衰退”と言われてしまうのは、そのような事も原因であるのかな、と思えてしまった。同時に現代の平面の状況は伝えるが、VOCAとしての主張が見えてこない事にも、多少の苛立ちは覚えたが。


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