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new2005.7.6
 web展評 目次

第3回京畿道世界陶磁ビエンナーレ

多様な文化的交流の証として


文●藤田一人 Kazuhito Fujita 美術ジャーナリスト
〈京畿道世界陶磁ビエンナーレ〉
2005年4月23日〜から6月19日

利川、広州、驪州


● 陶磁の栄枯盛衰に絡む日韓関係

 豊臣秀吉による文禄・慶長の役(1592〜98年)で、朝鮮に出兵した佐賀藩主・鍋島直茂が連れ帰った陶工・李参平によって有田焼が誕生し、日本の磁器は飛躍的発展を遂げた。その後有田焼は、ヨーロッパに多量に輸出され、ドイツのマイセン焼などに大きな影響を与えた。そして、日本の陶磁器は、近代以降も日本の主要な輸出品として発展を遂げた。

 一方、近代に入って一時衰退していた韓国の陶磁器は、第二次大戦後復興の道を歩むことになるが、そこで大きな役割を果たしたのが日本人だったという。現在、ソウル近郊の利川(イチョン)市に高麗青磁の再生に精力を注いだ柳海剛が開窯するなどして陶芸村としての端を発する。それが、1960年代後半から急増した日本人観光客の人気スポットとして活況を呈し、現在では80余りの工房が集まる韓国を代表する陶芸の産地となった。
ビエンナーレ会場となった利川世界陶磁センター

 このように、陶磁という文化を通しても、日本の韓国の関係は、その栄枯盛衰にからんで切っても切れない関係にある。

 しかし、韓国の陶磁器は、未だ日本の瀬戸や多治見のような巨大な地場産業として成立している状況にはないという。そんななかで、韓国の陶磁器文化の伝統を多くの人々に再認識させ、さらに将来の文化的産業としての発展の可能性を模索するような試みが展開されている。それが、今年で第3回を迎えた〈京畿道世界陶磁ビエンナーレ〉だ。利川、広州、驪州の三都市で4月23日から6月19日まで、陶磁に縁深い各々の都市の特徴を活かした展示やイベントが目白押しで展開された。

● ユニークな生活観の見直し

 現代陶磁の拠点というべき利川は、利川世界陶磁センターを舞台に、現代陶芸の最先端の状況を検証する。そのメインイベントが、〈国際公募展〉と〈世界現代陶磁展〉だ。特に国際公募展は、67カ国、1430作家・2475点の出品を有し、かつ大賞賞金6000万ウォン(約600万円)をはじめ、賞金総額2億1300ウォン(213000万円)を誇る世界有数の陶磁分野の国際コンクールとなった。過去二回同様、造形陶磁・生活陶磁の二部門に別れ、第一次審査はスライド審査で、生活陶磁部門69点、造形陶磁部門121点の計190点。さらに現物審査で生活分野67点、造形部門119点。計186点が入選。そのなかから、グランプリ1点に、両部門から金賞各2点、銀賞各4点。銅賞各6点他、特別賞、審査員賞他、計26点の受賞作が選ばれた。
国際公募展生活陶磁部門・金賞受賞 井戸真伸「ソウル」


 過去二回に比べて、今回の特徴は、グランプリが初めて生活陶磁部門から選出されたのをはじめ、現代美術の傾向を強める造形部門に対して、“用の美”にとどまらない、生活陶磁の多様な展開が垣間見られた。

 グランプリに輝いたスイスの作家、フィリップ・バードの『ヒューマン・ボウル・フェイス』は、「人間の顔は左右対称ではない」という、理解しているようで日常はさほど意識することのない現実を表現する。それは、単なる日常の生活容器ではなく、多分にコンセプチャルなテーマを前面に押し出す。ある意味、器としての形態と日常的なイメージに、人間の本質を潜ませた、器とオブジェの中間をいく作品だ。そこには、生活器というものが、単に合理性には留まらない、深い哲学性を内包しているというわけだ。

 また、それに続く生活陶磁部門の金賞に、日本の陶磁デザイナー・井戸真伸の白と黒によるシャープだが、柔らかさを感じさせる円形容器『ソウル』が。さらに、造形陶磁部門の銀賞に、薄い壁に囲われたささやかな部屋のイメージを並列させ、現代人の私的空間のあり様を示すような、長谷川泰子の『バリア』が輝くなど、日本作家の受賞は計6名で、地元・韓国と並んで最多。ちなみに、金賞受賞の井戸と造形部門の審査員賞を受賞した吉川周而は、今年多治見で開催される〈第7回国際陶磁器展美濃〉で、前者がデザイン部門、後者が陶芸部門のグランプリを各々受賞。良くも悪くも、陶芸の世界もグローヴァル化の流れの中にある、ということなのか。

 同会場でのもうひとつのメイン展示である〈世界現代陶磁展〉は、従来の陶磁の概念を超えようとする創作陶磁の作品が並ぶ。そこでもイギリスの彫刻家、アンソニー・ゴームリーの『アジアの土』の、多彩な人々が土を捏ねて形作り、焼かれた約19000点余りのテラコッタ人形で展示場の床一面に敷きつめたインスタレーションなどは、造形的存在感よりも、土を通した人々のこの世界でのふれあいをテーマとする。そういうところに、今後の陶芸の一つの可能性が秘められているとも言える。

●伝統の再認識と新たなビジネス・チャンス

 一方、李氏朝鮮時代の歴史的陶磁の地である広州市。その広州朝鮮官窯博物館で開催されたメイン企画は、〈世界青磁展 青磁の色と形〉。中国を発祥の地とする青磁器が、9〜10世紀にかけて朝鮮半島に渡り高麗青磁として独自のスタイルと美感を獲得する経緯と展開を、中国と韓国の名品や資料の比較によって検証する展覧会。そこには、芸術文化というものが、様々な交流と融合によって展開していくということを改めて考えさせる。そして、それは中国大陸と朝鮮半島を経て、日本にも伝わり、独自の陶磁器文化を開花させることにも、確かに繋がっているのだ。
国際公募展生活陶磁部門・グランプリ受賞
 フィリップ・バード「ヒューマン・ボウルフェイス」


 また、同会場では、そんな韓国陶磁の伝統的技術と美感をいかに現代に活かすかという、日本でいうところの、“伝統工芸作家”の作品展も併催。〈自然とともに〉と題された同展は、陶磁器が染織、木工そして伝統的で民族性を醸し出す絵画作品とともに展示され、韓国文化の底辺に流れる美意識を演出する。

 それに対して、もう一会場、生活陶磁器の産地である驪州市の驪州世界生活陶磁館では、前二会場とは打って変わり、作家制作の芸術的陶磁ではなく、工業製品のひとつとしての生活陶磁の多様な姿を見せる企画が並ぶ。特に、ユニークなのが〈世界陶磁記念品展〉。世界の美術館のミュージアムショップで販売されているミュージアム・グッズや日本の「招き猫」をはじめ、世界各地域の生活文化的風土に根差したおみやげ物や通俗的な記念品の数々が集められた。一つ一つを見ると、特にどうということもない、見慣れた品々だが、それらが一堂に会すると、何か違ったものが見えてきそうだ。これまでさほど注目を集めることはなかったが、大型産業としては成立していないという韓国の陶磁産業にとって、ささやかだか、新たな可能性を広げるビジネス・チャンスにも繋がるということでもあるようだ。とにかく、そういう需要は、意外に時代を超えて不滅のようなところがある。

 バブル経済の崩壊以降、地場産業として世界的にも巨大な規模を誇ってきた日本の陶磁産地も、苦境に喘ぐなか、韓国の模索が、何らかのヒントになることもあるだろう。

 日本と韓国の陶磁文化は、様々な意味で両国の交流史を象徴する。



企画展〈世界青磁展〉 会場の広州朝鮮官窯博物館

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