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new2005.5.5
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VOCA2005

“翻訳”から“アレンジ”へ〜


文●松浦良介(Webてんぴょう編集長)
2005年3月15日〜30日

上野の森美術館

 3月15日〜30日東京・上野の森美術館で開催されたVOCA2005。今回で12回目を迎え、37人の推薦委員によって推薦された37人が出品。選考委員は、酒井忠康(世田谷美術館館長)・本江邦夫(多摩美術大学教授、府中市美術館館長)・天野一夫(京都造形芸術大学教授)・松井みどり(美術評論家)の各氏。なお推薦委員は全国の美術館学芸員、ジャーナリスト、研究者などで、40歳以下という基準で推薦していく。
日野之彦 「あおむけ」140×200


 大賞であるVOCA賞には、日野之彦『あおむけ』『口に両手』が選ばれた。VOCA奨励賞には、居城純子『N34.21.29 E135.52.13』、中川トラヲ『風が吹いて そして すべて終りさ』。他、佳作賞として羽毛田優子『滲』、手塚愛子『織られたもの――もろさとともに』『織り直し』、大原美術館賞に鯉江真紀子『Untitled(P‐37)』、府中市美術館賞に田中みぎわ『風のきよら』が選ばれた。
日野之彦 「口に両手」240×130

 VOCA賞の日野之彦は、1976年石川県生まれ、筑波大学大学院修了。在学中に二紀展奨励賞、〈第9回青木繁記念大賞展〉大賞受賞。その後も〈第20回伊豆美術祭絵画公募展〉大賞、〈トーキョーワンダーウォール公募2003〉トーキョーワンダーウォール賞受賞など活躍目覚しい。

 その細かく確かにキャンバスめいいっぱいに描かれた、目を見開くブリーフ姿の子供のような人間像に関して各選考評では、「技術的習熟や絵画平面の自律性への真摯な配慮において、際立っていた」(松井みどり)を筆頭に程度の差はあれ評価されていたが、「確かに強い表現性はあるやも知れないが、そこに現代における絵画としての可能性を感じることは出来ないようにおもわれた。差し当ってはいいだろう。しかし“絵画”はここに回帰するべきではないのだ」(天野一夫)という意見もあり、今回はVOCA賞決定までかなり難航した様子を思わせる。

 今回は大賞受賞が前述したような作品ということもあって、近年20〜30代の美術家に多く見られるようになった具象表現について考えてみた。現代の具象というと、まず浮かぶのはニュー・ペインティング(新表現主義)の定着である。それは抽象一本やりという現代の絵画像を大きく変え、日本においては現代美術=抽象・公募団体=具象という構造も崩壊させた。しかしそれは“半具象”という文字通り中途半端なものが増えただけ、とも言える。それは、安井賞が、その“半具象”の増加により、“具象表現とは”という問題に明確な答えを出せずに終ってしまった状況にも感じた。こと日本においては、“具象”ということに安心しきっていた美術家などを刺激させたようにも思える。
手塚愛子「織られたもの もろさとともに」 221×194


 しかし村上隆等の活躍によるサブ・カルチャーの美術への流入・定着による近年の具象表現は、ニュー・ペインティングによるものとは違う。それはサブ・カルチャーという異質なものが美術というハイ・カルチャーと混じりあう、もしくは飲み込んだ結果生まれたものだからだ。

 サブ・カルチャーというのは、ハイ・カルチャーのように教育や政治などの庇護の下に展開されるのではなく、無数の企業と個人によってなされる大量生産・大量露出・大量消費の循環の中で育っていくものだ。さらにその循環の速度は速い。故に時間をかけて生み出すというよりは、たくさんのイメージや表現様式のアレンジで、表現していくものが多い。

 その表現方法が、美術にも定着しつつあるのだ。何かしらアイ・キャッチのようなものが描かれ、観るものはそれだけを鑑賞するのでもかまわない。また、一瞬グロテスクと思えるものでも、そうである背景(理由)が不透明なだけに、嫌悪感は呼び起こさない。はたまた雑なようであっても、細部や表面の処理はきちっとしている。
手塚愛子 「織り直し」 241×194

 ここで思うのは、絵画という表現様式に、そのようなものが合うかどうか、ということである。映像や映画のように次々とイメージを繰り出せるもではないし、かといって印刷などで複製を作っても、あくまでも複製としか価値は認められない。ただただ、その壁に掛っている一点のみが、絵画の絶対的価値なのである。これはデジタル時代において、あまり便利の利かないメディアである。こういったものには作る者も、観る者もじっくりと時間をかけてつきあってこそ、その良さが最大限に生まれると思う。そう考えると、同展に染める、縫うといった工芸の要素が強い作品が出品されることも頷ける。“作業”というものが時間を思わせることで、絵画というメディアの本来の良さを伝えるのだ。

 大きな時代の変化や流れに、美術も巻き込まれるのは避けようがないことだ。むしろそうなることで、タフになっていくものだ。そのために、その表現に合ったメディアを選択することが、重要になってくる。


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