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韓国の文化振興とイベント―
―〈第3回京畿道世界陶芸ビエンナーレ〉を中心に

〜“韓流”の更なる躍進〜


文●藤田一人(美術ジャーナリスト)

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文化コンテンツの市場拡大
 昨今“芸術・文化”というものが、有望なる産業・経済資源として注目を浴びるようになった。世界的なIT化の波が、それに乗って波及するソフト、文化コンテンツの需要を高め、その市場規模が急速に拡大しているからだ。従来、文化行政には決して積極的とは言えない日本政府も、国際的に高い評価を受け、市場的にも競争力が強く、世界各国で厚い支持を獲得してきたアニメーションやマンガを軸に、新時代の産業戦略として、より国際競争力のある文化コンテンツの開発推進を謳い始めた。

 しかし、日本の対応は今や遅きに帰した感も否めない。宮崎駿を筆頭とするアニメやマリオをはじめとするコンピュータ・ゲームが世界的な人気を博し、経済的成功を収めている反面、それを支える業界の構造や教育システムが機旧態依然で、その足元が揺らぎかけているとも言われる。各企業の企画・営業力に、個人レベルの表現、私的遊びの領域での発想のユニークさや技術の高さはあっても、行政面での大局的なビジョンや戦略に乏しいと言うのだ。それは、これまでも盛んに論じられてきた日本の政治における、文化行政に対する基本的な指針の欠如でもある。

 それに対して、昨今の韓国は、官民一体となってユニークな文化コンテンツの開発を展開するとともに、世界市場への進出を積極的に推進している。さる2月末から3月初めにかけて恵比寿ガーデンプレイスの東京都写真美術館で開催された「平成16年度文化庁メディア祭」(2月25日〜3月6日)に合わせて、同会場に隣接するガーデンルーム展示場で開かれた〈韓国文化コンテンツ秀作展〉(2月24日〜3月2日)などは、まさにそれを印象付ける。

 韓国文化観光局と日本文化庁主催で、駐日韓国大使館・韓国文化院と韓国文化コンテンツ振興院が実施した同展は、日本の“韓流”ブームの火付け役となった『冬のソナタ』に代表されるテレビドラマをはじめ、映画、アニメーション、漫画、ゲームソフトに各種キャラクター、そして音楽と、韓国内で人気を博し海外でも評価の高い、大衆文化コンテンツを一堂に会し、日本市場への売り込みに更なる攻勢をかけようというのだろう。

 言うまでもなく、昨年来の“韓流”ブームのなかで、日本では韓国の大衆文化が花盛りだ。しかし、韓国のテレビドラマは、日本より一足早く、中国、台湾等で人気を博し、アジアの市場を開拓してきた。また、映画は『シュリ』や『JSA』といったハリウッド顔負けのスペクタクル大作の他、カンヌ映画祭グランプリを受賞した『オールド・ボーイ』など、世界の映画界として映画市場でも注目される作品を輩出している。その他、日本でも人気のポップシンガー、BoAやネットワークゲームソフト『ラグナロック』と、そこで紹介されているのは、韓国をリードする大衆文化であるとともに、いや、それ以上に韓国の明日を切り開く経済資源としての可能性を前面に押し出す。文化的ソフトとしての内容に関しては、〈文化庁メディア祭〉に並ぶ作品群とさほど差はないのだが、各政府の捉え方、押し出し方が全く対照的であるのが、実に印象的だった。

 日本、特に戦後の日本が、政治と文化・芸術というものを極力切り離して考え、実践されてきたのに対して、韓国の場合は、政治と文化・芸術が密接に絡み合い、表裏一体となって展開されてきたと言ってもいい。従来、その政治と文化・芸術が民族意識、イデオロギー、歴史観というものによって強く結びついていたのに比べ、昨今では、国内外における経済効果の下に結びつきを深めている。

 
















〈韓国文化コンテンツ秀作展〉パンフレット表紙
































〈第3回京畿道世界陶芸ビエンナーレ〉ポスター



















前回のビエンナーレの様子

観光と産業開発としての文化イベント
 そんな韓国では、ITを基盤とした文化ソフトの開発と市場拡大が進展しているとともに、従来の文化財・芸術活動に対する新たな価値の認識と産業資源としての可能性を模索している。その一例が、首都・ソウルを取り囲む地方自治体、京畿道の主催で展開されてきた〈京畿道世界陶芸ビエンナーレ〉だろう。

 同ビエンナーレは、韓国陶磁のメッカである利川(イチョン)、広州(クワンジュ)、驪州(ヨジュ)の地域を舞台に2001年にスタートした、韓国の陶磁文化を内外にアピールする大型イベント。朝鮮半島は古来、中国の影響下、独自の陶磁文化を発展させ、李氏朝鮮王朝時代の陶工の渡来が日本の陶芸を大きく飛躍させた。が、近代に入って低迷期を迎えるが、近年、伝統的陶磁の復興と現代的陶磁の模索が盛んになり、同三地域はその中心地として韓国における陶磁工房の約6割が集中するといわれる。利川は現代陶工の拠点。広州は李氏朝鮮時代の王室官窯があったという歴史の地。驪州は韓国最大の生活陶磁器の産地。そんな地域性を背景に企画された同ビエンナーレには、韓国陶磁の文化的普及と振興はもとより、産業的展望そして京畿道の観光開発という狙いも大きいのだろう。過去二回はメインイベントの一つである国際公募展に世界各国から多数の作家(第1回・2001年、69カ国2019作家、第2回・2003年、68カ国1481作家)が応募し、世界有数の国際陶芸展として評価を得るなど、専門家に注目される一方、“博覧会”というべき大衆の興味を惹く娯楽的要素も豊富で、延べ1000万人を超える入場者数を誇る。そうして今年、第3回〈京畿道世界陶芸ビエンナーレ〉が“文化を盛る陶磁”をテーマに、4月23日から6月19日にかけて開催される。

 主会場は、利川世界陶芸センター、広州朝鮮官窯博物館、驪州世界生活陶磁館。利川では、まず第3回〈国際公募展〉が67カ国1430作家の応募作品から大賞(賞金・6000万ウォン)をはじめ入賞・入選190点を展示。また、世界の陶芸・クレイワークの現状をイギリスの彫刻家、アントニー・ゴームリー他、今日活躍が著しい約30名の作家の新作を中心に展望する〈世界現代陶磁展‐横断する陶磁芸術の境界‐〉。さらに特別展として建築資材としての陶磁の可能性を模索する〈陶磁と建築〉、野外陶磁彫刻が展開される〈風景と陶磁〉。広州では、中国と韓国の青磁の歴史的展開を比較検証する〈世界青磁‐青磁の色と形‐〉に、今日の韓国伝統的陶芸作家の仕事を示す〈自然とともに〉など。そして驪州では、住居空間にやける様々な陶磁のコンセプトを提案する〈セラミックハウスU〉に、世界各国の観光地のおみやげ品やミュージアム・グッズを対象にした陶磁製品の数々を一堂に会する〈世界陶磁記念品展〉など、日常製品としての陶磁のあり様を検証する。その他、三会場の周辺で多彩なシンポジュウム、ワークショップ、子供を対象にした教育プログラムにパフォーマンス・ショーなどが展開される。

 このようなイベントの内容からも、同ビエンナーレが実に多様に韓国の陶磁文化の可能性を探ろうとしていると、察することが出来る。それは、伝統的文化財、現代的造形芸術といった芸術・文化コンテンツの開発としてだけではなく、地場産業の育成や観光事業の促進などの意図も見てとれる。そしてそこには、文化と政治、経済が密接に結びつく韓国のお国柄あるのだろう。以前にも増して、日本での積極的な広報活動。それに際して、ハンナラ党の有力政治家といわれるソン・ハッキュ知事が来日するなど、京畿道の行政府としての力の入れようが分かるというものだ。

 同ビエンナーレを主管する?世界陶磁器エキスポのナム・ギョミン事務総長は言う。

 「韓国の陶磁器は長い伝統を持ってはいますが、日本のように大規模な地場産業として成立してはおらず、小規模な工房が並立しているというのが現状です。そんななかで、まず、そういった工房の陶芸家達が交流し、協力しながら、韓国文化としての陶磁の可能性を探っていくことが大切なことで、同ビエンナーレはそれを促し、韓国陶磁の基盤を確立することが課題だと言えます。そのためには、同時に一般の人々にも、韓国の陶磁に関する理解も欠かせない。そしてそれが深まることで、テーブル・ウェアなどの国内市場が拡大するでしょう」と。

 韓国の陶磁は産業としてはまだまだ発展途上で、今は文化的普及と国内市場の確立が目標だと言うことだが、〈世界陶磁記念品展〉のような企画からは、例え小規模な工房であっても、ユニークな発想で産業化と海外市場に向けられた視線を感じる。

 さらに、今年2005年は日韓国交正常化40周年にちなんで日韓友好年ということもあって、昨年の韓流ブームを引き継ぎ、日本からの観光客勧誘にも拍車が掛かる。

 「陶磁ビエンナーレを含め、私どもは、今年を“京畿訪問の年”として、海外からの観光、旅行者の誘致に力を注いでいます」とも。

 小泉首相も東京の石原都知事も東京をはじめ海外に向けての日本の観光促進を力説してはいるが、もう一つインパクトに乏しい感が否めない。それに対して、韓国の政治と産業、文化、観光などが一体となったアピールには、考えさせられるところが多々ある。

 ところで、最近では“竹島(独島)問題”に揺れ動く日韓関係だが、そこにも政治と歴史が結びつく。歴史認識と政治の関係に敏感な韓国と無頓着な日本。それも韓国と日本の文化観の違いと言えるだろう。が、文化観とは決して一様ではなく、多様な状況、要素を結びつき、その時々、各々で取捨選択されていくもの。だから、例え歴史認識の差などが日本と韓国の間に横たわっていても、他の関係を著しく損ねることはないだろうし、そうであることを望む他ない。

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