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new3.25
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サム・デュルッカー個展




絵の在り処


文● テメル 華代 
画家 (投稿)
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 その絵を見ると、必ず目が合う。スタイルや筆致などの特徴から、同一の画家の作品を言いあてるのはよくあることだが、サムの絵の場合に手がかりとなったのは「視線」だった。Galerie Vieleersで、初めて彼のフィギュアペインティングを見たのは2001年のことだ。何気なく足を運んだ地階のストックルームで、大きなカンヴァスに描かれたモデルたちと4度目が合い、それがすべて同じ画家の作品であることはすぐに分かった。サム・デュルッカー(1957〜 )、アムステルダムとスペインのバルセロナにアトリエを構える“現代”画家。その絵筆がまだ健在であることを知り、彼の創作活動への好奇心が高まった。極めてフィギュラティヴな形式をとりながらも、フォーマリズム美学に媚びることなく描かれた人間味ある裸、強い眼差し。ギャラリーのショーウィンドウに展覧会ポスター、画集にテレビにウェッブサイトと、その視線は街のそこかしこから人々を凝視し堂々と訴えかけてくる。


 サムの個展は、昨年初頭にハーグのDe Twee Pauwenを訪れて以来1年ぶりだった。相変わらず、彼のカンヴァスの囲まれるやいなや独特のリアリズムの虜になり、暗闇のような、それでいて透明感あふれる空間を彷徨いながら一人一人描かれたモデルたちと対峙する。地の質感や色合いを生かし、ほんの数タッチで立体を仕上げてしまう彼の神業、平面に描かれたはずの人間はもはや質量と生命を得て、向こう側の空間からじっくりと鑑賞者を見返しているようだ[図@〜C]。絵を描く者としては、「見せつけられた」というのが最も素直な感想で、作品の芸術的価値はプライスリストにもよく物語られている。しかし彼の作品を追い続けて4年目、展示作品の選考に関しては、「これはサムのベストではない」と、一目で判断することができた。


 図@
"Memory of Matthijs Roling"
油彩、70×60cm


    
図A
"Girl with Blue Hairribbon" 油彩、20×20cm

図B"Temfys Fugit"
油彩、50×50cm
図C"Man and Woman II" 油彩、140×91
 それは鑑識眼というよりも寧ろ合理的思考に基づいていて、サムの「ベスト」は、彼自身がプライベートコレクションとしてアトリエに所蔵しているのである。2003年にインタビューのため彼のアトリエを訪れた際、イーゼルや画板の陰に立てかけてあった一枚の肖像画を見つけた[図D]。瑞々しい表情と頬に差す光、胸元から滴ったテレピン油の跡までもがひとつの美として結晶し、暫くの間私の目を掴んで離さなかった。「その絵はね、自分への贈りものなんだよ」と、サムが種明かしを始めた。「僕はプライベートコレクションが少ない方だけど、どうしても手放したくないものは自分へのプレゼントにしている。僕だって自分の絵が欲しいからね。本当は、一番出来のいいものを展覧会で見たいんだけれど、『見せたいもの』と『売りたいもの』は違うから、そこがジレンマだ」彼が言った通り、1年後に行った個展では、同じモデルを同じ構図で描いた『売りたい』方の作品を目にし、その違いに驚かされた[図E]。輝きが全く違う。アトリエの片隅で輝いていた彼女の姿はまるで別人のようにさえ見え、サムの才能を知る者ならば、それが彼の最高傑作でないことを容易に知り得るはずだった。

 「ベストの在り処」を探りながら作品を鑑賞すると、自ずと美術界の仕組みも分かってくる。画家、スポンサー、ギャラリー、美術市場に文化政策まで、あらゆる要因が交錯する社会で絵画が循環しているのだ。先鋭的・商業的なアートシーンに翻弄されることのないオランダの芸術的風土、純粋な表現を尊重する政策や蒐集家たちの油彩に寄せる愛好、各地で開催されるアートフェアやギャラリーごとに掲げられたコンセプト、そうした情報に精通することによって次第に、鑑賞者としての勘が鋭くなってくる。値札のついた「商品」に満足できないのなら、ギャラリーのストックルームでもアトリエでも、画家が本当に『見せたい』と思っている絵に出合う場所はいくらでも用意されている。画家の生きる環境を、すべてそのまま展示場所に置き換えてみなければ、その絵の在り処は見えてこない。


図D
Drukker "Letizia" 油彩80×60




図E
"Letizia" 油彩、80×60
■ サム・デュルッカー略歴
1957年生(Goes, The Netherlands)。1982年にミネルヴァ美術アカデミーを卒業。パリ、アムステルダムで制作活動を展開し、1991年、"Dutch Portrait Society" 創立。1997年より現在の活動拠点はバルセロナとアムステルダム。
【展覧会】1988年の初個展以降、オランダ各都市を初めとして、バルセロナ、ニューヨーク、ボローニャなどで個展・グループ展多数。Kunst RAIやArt Fiera Bolognaなどのアートフェアにも参加。
【メディア】画集に“Sam Drukker, DAMES EN HEREN!"、テレビ番組に“Nude with depth" (The Netherlands 1 the AVRO)など、他多数。


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