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new2005.1.07
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シェル美術賞展2004

“ぼんやり”とした中ではっきりと見えたもの


文●松浦良介 Ryosuke Matsuura
『てんぴょう』編集長

シェル美術賞展2004

2004年11月24日〜12月5日
代官山ヒルサイドフォーラム

 11月24日〜12月5日、東京・代官山ヒルサイドフォーラムで、〈シェル美術賞展2004〉が開催され、受賞・入選作品43点が展観された。
 今回は、応募人数801名、作品数1254点、平均年齢26.3歳と、まさに新人美術家の登竜門のような存在になりつつある。審査員は、審査員長に本江邦夫(多摩美術大学教授)、ほか岡部あおみ(武蔵野美術大学教授)、尾崎信一郎(京都国立近代美術館主任研究官)の三氏。
 今回、まず話題となったのは、グランプリ受賞の藤井俊治さんが21歳、ということ。年齢でどうのこうのいわれても、と本人は苦笑するしかないだろうし、“新人”で“21歳”はそんなに珍しくもない。それだけ今までの美術賞が、“新人を対象”といいつつも、一般的にはそうではなかったということであろう。
 受賞作品『humanoid』は、一見すると、特に印刷物などでは、近年主流ともいえるツルッとした映像的絵画なのだが、実作品に接するとそのような印象はない。むしろヒューマノイドを自分なりに丁寧に描いた作品。周りに散らした色も、余白におけるニュアンスを追求する日本のソフトな抽象画の流れを継いでいると思える。そういった点で作品完成度は高く、そこで先ほどの年齢を考慮するとその完成度がさらに評価されたに違いない。
 全体的な傾向としては、「作者の感じるところを具象的なイメージに仮託する作風が多かった」(“審査講評”尾崎信一郎)とあるように、何かを描こう、という意識が強いものが多かった。しかしその反面「なぜそのように描かなければならないか、突き詰めて考えられているのだろうか。この点は抽象的な表現においても同様である」(同上)と指摘されるように、単にアイキャッチにしか思えないのが多かったのが事実。抽象作品も、“ぼんやり”としかいいようのないものがほとんど。ただ、今村綾『radiant』(尾崎信一郎賞受賞)は、その“ぼんやり”としたものが集まり緩やかに固まることによって、大きなイメージを生み出した抽象表現で、“ぼんやり”で終らない作品であった。
 前述した状況の根底には、何を描いてもよい状態になった絵画において、実は何を描きたいかわからない画家の現状があるのではないか。はっきりとしたモチーフ、線、色彩は全て主張につながってしまう、それが恐れとなる。だからといって主張すべきものはなくても描いたっていいではないか、という意識もある。中には、もしくはそれだからこそ……、というある種開き直りのようなものも感じさせるものもあった。
 そういった中で、オーソドックスではあるが、廣瀬陽子『腹白』、橋爪彩『ソックス』(岡部あおみ賞受賞)、畑中宝子『ハミガキ』には、画家が描きたいものをストレートに伝えてくる作品であった。
 また前述した“開き直り”を全面に押し出したような、単なる色面のみが作品の多くを占める作品も多かった。そのほとんどは、まるで映画か映像作品のワン・シーンのような、絵画という表現には向いていない儚い存在感と印象のみしかない。だが、小林浩『予言』(岡部あおみ賞受賞)まで徹底的に突き詰めると、何かのワン・シーンとしては成立しない絵画という表現にも成り得るのだ。もちろんあっさりとした画面に対する、意味深なタイトル、というものも効果大であるが。
 一方、奈良エナミ「KISS」は、余白(空白?)がおおい作品なのだが、体を重ねる男女の“塊”の上に広がる空間は、多くの感情を孕み、遊ばせるまさに“余白”であり、どうしても何か新しさが要求されるコンクールでは目立たないのかもしれないが、展観された作品の中では、オーソドックスが故の退屈さは無く、最もシンプルで力強い作品であった。
 審査員の尾崎氏は「いささか驚いたのはこれほどの数の作品が寄せられながらも社会性や政治性をはらんだ作品がほとんど皆無であった点だ」(同上)と指摘する。これは他のコンクールどころか、美術全体に言えることである。現在は、政治や社会を語ることは、性を語ることよりもタブーになっている。このアレルギーには、戦争画を代表に美術家が時代に呼応したが故の失敗、といった過去も原因にはなっている。だがそれを理由に、美術家が社会において、自らの居場所を持っていない現状は怠慢とも言えるだろう。この足元の無い浮遊状態が解消されない限り、現在のような表現は続いていくのだ。
 映像が絵画を凌駕する、いや絵画が映像を……といった議論はここ数年盛んだ。絵画は既に美術において歴史ある絶対的な表現手段でなくなったことは確かだ。一つのメディアになったのである。それが故に、絵画というメディアでこそ表現できるものを描いた作品が、高く評価されたとも言える結果であった。







藤井俊治 「humanoid」
グランプリ






奈良エナミ 「KISS」





小林浩「予言」 
岡部あおみ審査委員賞






今村綾「radiant」
尾ア信一郎審査委員賞


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