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ヒューマンライツ写真展

                            
イラク戦争前のホワイトハウス執務室、について


文●石橋宗明 ISHIBASHI Muneharu
画商
 (投稿)
ヒューマンライツ写真展
2004年1月4日〜3月7日
伊丹市立美術館
兵庫県伊丹市宮ノ前2丁目5番20号
072−772−7447
企画制作
G.I.P.Tokyo,Contact Press Images
Paris&New York
尚この展覧会は、6月1日〜21日の期間、
コニカミノルタプラザ(新宿)に於いて開催される予定です。


 『ヒューマンライツ写真展』の企画制作を手掛けたコンタクトプレスイメージは、フォトジャーナリズムのエージェントである。この展覧会は、所属する写真家によって過去30年間に撮影された写真群の中から、国連の「世界人権宣言」の条文に関連付けながら選んだもので構成されている。テーマは人権であり即ち、民族紛争、殺戮、難民、飢餓、テロリズム、失業、子供といった事柄が対象となっている。これに加えて近年では、グロバリゼーション、バイオテクノロジーや地球環境などの新たな動きにもレンズが向けられている。
イラク戦争前のホワイトハウス執務室にて、
(左から)コリン・パウエル(国務長官)、
ディック・チェイニー(副大統領)、
ジョージ・W・ブッシュ(大統領)、
コンドリーザ・ライス(大統領補佐官:国家安全保障問題担当)、
アンドリュー・カード(ホワイトハウス主席官)、
ジョージ・テネット(中央情報局長官)、
ドナルド・ラムズフェルド(国防長官) 
  2002年2月 ワシントンDC アメリカ
アニー・ライボヴィッツ 100×138cm カラー(ラムダ)
(C) Annie Leibovitz/Contact Press Images


 印象深い作品が幾つかあったが、ここではアニー・ライボヴィッツによる秀逸なポートレイト、『イラク戦争前のホワイトハウス執務室にて、…』を取り上げてみたい。ブッシュ政権の中枢は、石油資本や軍需産業の代表で構成されているから、これは会社広報部提供の重役写真と同じ類のものだ。ホワイトハウス公認の写真もかくやと思われるほど演出が効いている。底本としてアメリカのテレビドラマ、例えば『ザ・ホワイトハウス』や『ER』などがありそうだ。このテレビドラマ風というアイディアを持ち込んだのがライボヴィッツなのか、それともブッシュ大統領や側近だったのかどうかは分からない。どちらにしてもこれは面白いアイディアだった。芝居掛かった表情も手伝って、虚構と実像の二重構造が浮かび上がってきたのだ。権力者が自ら道化を演じる様が見え隠れして、アイロニーが漂うこととなったのである。ところでこの逆説的落とし穴が掘られている最中、ライス大統領補佐官だけが相変わらず凛然としている。きっと彼女は、自分たちは世界平和の使命を担っているのだと本気で信じ込んでいるに違いない。それだから、気分を出さなくてはならない理由が理解できずにいるのだろう。

  「国境なき医師団」の日本事務局長を務めた、ドミニック・レギュイエ氏の講演に臨むことができた。その中で彼は、「日本国内では、人権が守られていない状況を目にすることは少ない。『ヒューマンライツ写真展』は鑑賞者が、自分と人権との関係を見直す良い機会となるだろう」と述べた。これは『ヒューマンライツ写真展』の意義を言い当てている。日常私たちは、少なくとも軍事・独裁国家や紛争地帯に見受けられるような、あからさまな人権侵害は経験しない。その為なのか、人権について意識に上らせることがほとんどない。従ってこの展覧会に接することで、何らかの感情を持ち、改めて人権とそれを尊重することの意味について思いを巡らせてみるのも有益なのではないか、とレギュイエ氏は言っているのである。そして私は次の様にも考えてみる。民主主義という状態を実現することは、人間の至上の政治的、社会的課題である。だが現在のようにそれが十分に成熟していない段階では、あからさまな侵害を受けずにいる人々の数が、かろうじて多いという状態があるに過ぎない。しかし境界線などは存在しない。緩慢と危急、鈍感と敏感の両方向があるだけである。緩慢のベクトルにいる人々が、残酷ということについて想像力を鈍らせたままでいるのなら、国家や人はいつまでたっても成長しない。それどころか、不条理の増長を招き、多くの市民が危急の状態に置かれてしまうことにもなりかねない。
韓国ケレット監視地点から北朝鮮を見るジョージ・W・ブッシュ米大統領とコンドリーザ・ライス大統領補佐官
2002年2月20日 韓国北朝鮮非武装地帯
チャールズ・オーマニー
100×145cm カラー(ラムダ)
(C)Charles Ommanney/Contact Press Images


 こうした考え方は国内での人権抑圧のみならず、他国のそれに対しても当てはまる。ベクトルは国境や海の上にも横たわっているのである。北朝鮮政府による外国人拉致や、強制収容所などで行われている残虐に対して、長い間私たちは批難の声を上げることができなかった。独裁政権の存続を許し、更に多くの人々が苦しめられ殺されている事態の遠因には、私たちも含まれているのではないか。疲弊が増すばかりの北朝鮮だが、厄介な事に、別の不条理をも呼び寄せてしまっている。軍産複合体にとって、それは魅力的に肥った家畜に見えるのである。機が熟したと見るや件の重役たちは、正義と平和を振りかざし始めるだろう。危機を煽って恐怖を植え付けたり、私たちの善意を利用しようとしたりする。非人道的なビジネスの実体を覆い隠し、戦争を正当化する為である。こうした演出は、アフガニスタンとイラクへの侵攻の際に使われた。そして金正日に対しても、彼の今後の出方次第ではキャンペーンが強化されることだろう。さて、日本の自衛隊に目を転じて見よう。イラクへの自衛隊派遣は、国際貢献というよりもクーデターの様相を呈していると言える。軍隊にアイデンティティーを求める「軍人」や、憲法第9条嫌いの政治家らが、上記の不条理の連鎖を復活への好機と捉え利用したのである。ホワイトハウスの重役たちにとっては、下請けの同盟軍が1つ増えたに過ぎないのだろうが、私にしてみれば、紛争を糧とする不条理な生業集団の成立を自国に於いて見ることになりそうで、不快である。

コフィー・アナン国連事務総長と妻ナーネ、ホテルの一室にて
2001年3月 ダッカ バングラデッシュ
デーヴィッド・バーネット
100×144cm B/W(ラムダ)
(C)David Burnett/Contact Press Images


ポーラ・ファリア医師、国境なき医師団(MSF)
スペインセクションのアンゴラ給食センターで
2002年5月 シピンド アンゴラ
セバスチャン・サルガド
100×145cm B/W(ラムダ)
(C) SebastiDo Salgado/Contact Press Image



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