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「人間をつくってください」
                            
名古屋市民芸術祭2004主催事業・美術部門企画展 

文●日沖 隆
HIOKI takashi  美術評論家 
(投稿)

2004年10月5日〜10月17日
名古屋市民ギャラリー矢田 
企画∩ナビゲーター 設楽知昭
企画監修 高橋綾子

名古屋市民芸術祭2004主催事業・美術部門企画展




 
(写真1) 方丈の夢(竹内孝和)
 

「人間を作ってください」という、不穏な呼びかけの展覧会。1人の画家の依頼に、4人の彫刻家と3人の学者が応答する企画展が名古屋で開かれた。

 企画名がいい。ともすれば観念的、総称的な冠になりがちだが、優しく逆説的に、現代を問いかけている。ネーミングにふさわしくロボット工学の紹介や、心理学者、霊長類研究者との交流も図られ、アートとサイエンスにまたがる横断的な試みが、テーマに広がりをもたらした。加えて、図録代わりに1冊の本が出版されたのも、慣習的な企画からの脱皮を感じるものだった。公立美術館ではこういう柔軟な企画は生まれない。

 矢田市民ギャラリーの5つのホワイトキューブに、5人が1部屋ずつ作品展示。「どのような人間が創られるのか?」という興味と期待を呼び起こす。

 展示は、パレチンこと、設楽知昭〈画家〉の「人間ハ、ヤッテハイケナイ事バカリシテイル様ナ気ガシテナリマセン」という手紙が置かれたデスクと、本棚の部屋から始まる。
 
 画家の部屋の壁に、丸いパネルに首輪の青年像、アトムや少年の絵など、ひ弱そうな現代的人間が並ぶ。設楽知昭特製のポリエステルパネルに、「ナンダカ、アブナイ」死と生の境界絵画が描かれ、象徴的な想像を促す。
(写真2) 暴力(北山善夫)

 依頼に答えて、ドイツから帰国の竹内孝和の作品は、木の香も生々しいシンプルな1軒の小屋(1間×2間ほど)。屋根、壁、床がおびただしい板の線構成で、中に入ると隙間から光が無数に差し込んでいる。(写真1)竹内は、人間が誕生した時、「まず、そこに水があり、土があり、光があったと思う」と語る。小屋の中に、男か女か定かでない土人間が背を向ける。小さな草の生えた土の身体は、原生的な衝撃波を放っていた。

 続く、北山善夫のペンドローイングも圧巻であった。粘土のモデリング行為をペン画の行為に置き換え、さらに「粘土人間の葛藤劇」に仕立てる。人体を塑像していく際の、粘土のちぎり、くっつける断片的タッチ、凹みや指あとの格闘的痕跡を拡大し、大線描画として提出する(写真2)。その物質的人間が抗争劇を展開し、1人、2人と増え、最後に屍の歴史となる凄さ。執拗で異形な表象と、並々ならぬ構築力に感動と敬意を覚える。

 森北伸の暗い部屋には、4×8の合板パネルが4枚、大テーブルを形成。その広場中央に、ブランク―ジの無限柱。両手に杖らしき棒を持つ小さなペラペラ銅板人間が19人ほど点在する。空間の中の不安定な人間表現は、森北独特のもの。銅版人間たちの間を縫うように、落書き的鉛筆ドローイング。始原的な風景の現われに、漂流感が漂う。ひょうひょうとして偶発的、断定を避ける森北の空間性は、我々に向って開いている。(写真3)

 紅一点、芝裕子の黒い網が三重に立体化された作品。部屋一杯に、ワイヤーで吊るされて空中に浮かぶ(写真4)。袋の中に袋、その中にまた袋と、3つの筒は、悠然とした「内包感」に観る者を引き込む。芝はこれをへその尾から発想。「つながっている」という、生命体の中にもう一つの生命体を意識させる。命が内包され、胎内復帰の連鎖に導く透き通る網立体。「遡る身体性は内包される」という芝のコンセプトは、女性らしいしなやかさで強靭。黒色の軽やかさは、不気味に現代的だ。
(写真3) a colony on the table(森北伸)

 4人の彫刻と1人の画家の作品は、くしくも人間の創生神話を想い起す。原初的発想が共通に流れ、人間への根源的問いとなり、観客への思索を促すものになった。

 だが、現代は、余りにも多面的な問題に直面している。設楽の「人間をつくってください」というメッセージの中には、クローンやコンピューター社会など、おびやかされている人間存在への不安があるはずだ。

 その意味では、北山善夫の「暴力、剥奪、支配、死」などの粘土人間の葛藤劇が、最も鋭く人間の愚かさを感じさせ、現代を照らしていた。他の作家の原初的発想もそれぞれ新鮮で現代を逆照射していたが、むしろ、素朴で実直なアーチスト像が浮かび、現代人への危機意識は希薄であるように感じた。その意味では、発案者の設楽の期待には答えていたのは、北山1人であったのではないか。もっとも、作家依頼の時点である程度はそれも予測がつくことではあるが。
(写真4)遡る身体性は内包される(芝裕子)

 ともあれ、高橋綾子の観客に寄り添う、エスプリのきいた企画力にはいつも感心させられる。この依頼は、私たちへの課題としてもバトンされたものなのだろう。

 学者とのシンポジウムは、批判バトルもなく、裏の労苦を思えば大変だったと思うが、努力のわりには、平凡な報告会になったのは「残念!」。しかし、他県のギャラリーへ巡回してもいい良質の企画展であったのは、「間違いない」。




■北山善夫                 ■竹内孝和 
1948年 滋賀県生まれ           1961年 三重県生まれ    
1992年 日本芸術大賞受賞        1998年ドイツ国立デュッセルドルフ芸術大学
1982年「第40回ヴェネツィア・       マイスターシューラー収得
ビエンナーレ(イタリア)           1990年 第18回日本国際美術展 大賞


■森北 伸                   ■芝裕子
1961年 名古屋市生まれ             1975年 愛知県生まれ
2001年 「現代美術NAGOYA」          2001年「光を集めて光を放つ光の蔵」石川県
    名古屋市民ギャラリー矢田        2004年 前橋アートコンペライブ入賞
2003年 「ポジション2003」名古屋市美術館


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