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小池康之展

面の深み

文●山本耕一 Kouiti Yamamoto 美術作家
7月21日〜8月2日
ガレリアフィナルテ
名古屋市中区大須4-6-24
成田ビル上前津B1F 
電話:052-242-8684
 湖沼の透明度を測定する方法。一定直径(25cmと記憶)の白色円盤を水平状態を保ちながら水中に沈め、視認不可能となった深度をもってその湖沼の透明度とするという話を聞いたことがある。
 水面は、それを上から見ると「面」であるが、その透明度が効いていくかぎりの「深み」を持つ。小池康之氏の作品は、そのようなことを連想させる。
 彼は、一貫して「面の深み」を追求しつづける作家であると感じた。
 今回の会場(名古屋市のガレリアフィナルテ)には、A3パネル仕立ての作品と、ロールスクリーンのように素材(和紙)そのものを懸垂した作品の両者が展示されている。どちらも支持体は和紙であるが、和紙を揉んで無数の皺をつくり、そこにアクリルラッカーで最低でも9色の色膜を吸収させ、パネル仕立ての方はさらに油彩とニスを施して艶を持たせている。
 結果として眼にうつる「面」は、とても不思議だ。今回は、深いグリーンが基調なので、A3パネル仕立ての作品の方は、一見同じようなパネルが並列されている「ミニマルアート」のように見えなくもない。しかし、近づいて見ると、全く違うのがわかる。
 そこに現れるのは、一枚一枚が、異なる、独自の「深さ」を持った「面」である。視線は、最初、「濃い緑の面」を捉えるが、それは、見る方の視線がそこではねかえされているということにほかならない。
 さらに見込んでいくと、かすかな色味が次々と現れ、それが「深さ」へと重なっていって、一種「瞑想的」といってもよい奥行きを見せる。それは、いわば「視線の冒険」であり、気がつくと、視線が視線自体を見込んでいる……そのような思いにさせられる、けれどもそれは、やはり「平面」である。
 ここにきて、われわれは、「平面の問題」ということを、どうしても考えさせられることとなる。
 絵は、平面に描かれる。それは、絵というものの持つ基本原則である。
にもかかわらず、絵は、奥行きを志向する。これもまた、絵というものの持つ本来的な宿命であろう。
 その意味で、すべての絵画は、一種の「だまし絵」であるということもできる。絵画は、実は、人間の意識に依存して初めて成立する、非常に高度な「表象−体」である。
 「体」としての支持体の表面に、一定の技術をもって、特定の「表象」を現出させる。そして、この表象は、人の意識作用において、「世界」を存在させる。
このとき、「体」と「表象」のどちらがリアルであるか。「表象」が具象物であれば、人の意識は簡単に「表象」に拉致されて、「体」はほぼ非存在となる。しかし、表象に具象物が見いだせない場合、とくにオールオーバーの色面になった場合には、やはり視線はとまどう。
 今までの「色面作品」の場合、視線は、結局支持体そのものを見出したり、あるいは画材そのものを見出したりすることが多かったように思う。しかし小池氏の「平面」は、視線のそのような「安易な帰還」を許さない。視線は「深み」にとらわれて、孤独なダイバーのように「表象」と「体」のあいだにできた無数の襞にさまよいこみ、戻ることすら忘れてしまう。
 にもかかわらず、彼の作品が一種の透明度を保ち得ているのは、冒頭に揚げたような「透明度測定」の方法が、作品自体を支えているからであろう。
 むろん、彼が、職業として「透明度測定業」であったというわけではない。しかし……彼は、「釣り人」である。森に囲まれた湖のほとりで、何時間も釣り糸を垂れている、そういう人なのだ。
 単純に、「釣り」と彼の作品を結びつけるつもりはない。しかし、作者本人の言によれば、今回の作品は、山々の複雑な色の重なりを「移した」ものであるとのこと。最近の山に目立つ「松枯れ」の赤もそこには含まれているということである。
とすれば、やはり、彼の作品は一種の「山水画」であろう。山の姿、水の姿……それは、その風土に暮らす人の「意識」を待って、はじめて姿のある作品として成立する。
これまでの山水画は、「線」が人の意識を待って、山の姿、水の姿として成立した。しかし、彼の作品は、その色の重なりの透明度が、人の意識を誘う。意識は誘われるが、具体物の姿にはならない……意識の旅は、もしかしたらどこまでも続けられるものとなる。
 これには、あるいは、彼が、油彩画の古典技法をかなりやりこんでいるということが関係しているかもしれない。しかし、わが国にも、油彩画の古典技法を追求している人は多いが、国土の「山水」にそれを表現していこうという意志には、はじめてお目にかかったような気がする。
 そのように、彼の作品は、いろいろなことを考えさせてくれる。「平面の深み」を追う試みとして、他に類をみない領域を地道に開拓している作品であるといえよう。 




「色面体 初夏」
H100×W77cm
素材:和紙、アクリルラッカー
2003年



小池康之
(こいけやすゆき)


1966 岐阜県生まれ
1992 東京藝術大学美術学部絵画科油画卒業

個展
1994、1995、1996、1997 ウエストベスギャラリー
1998 希望社ギャラリー(企画)、ギャラリープレンヌ・ビュ(企画)
1999、2001、2003 ガレリアフィナルテ
2002 偕拓堂ギャラリー


グループ展
1995 ウエストベスギャラリー企画 アートケース展
1996 ウエストベスギャラリー企画 アートの缶詰展
1997 モリスギャラリー企画 flat,flat,flat展、街はいまアートで溢れる4th.アートカイト・ミュージアムin一宮
1998 ウエストベスギャラリー企画「4個のアート」展−絵画、偕拓堂ギャラリー企画「視展」
2000 尾州ネット「アートオブギャラリー」掲載
 
  
 「色面体 淵」 H42×W29.7cm 素材:和紙、パネル、アクリルラッカー、油彩、ニス
 2003年 hpoto by 尾州ネット


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