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new8.12 (21日一部修正)
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クリスト・アンド・ジャンヌ=クロード
『ザ・ゲート(門)、ニューヨーク、セントラル・パークのためのプロジェクト』

文●高石ゆみ Yumi Takaishi 美術ライター
(その1)
その2はこちら

  去る6月6日の朝、閑静な住宅街にある小さなギャラリーに、続々と人が集まってきた。会場では、ニューヨークで収録されたばかりの、クリストとジャンヌ=クロードのヴィデオが流されていて、それを熱心に見入る報道関係者たちは、たちまち50人を超えた。人通りの少ない静かな場所に、そぐわぬ熱気が漂っていた。

  『ザ・ゲート(門)、ニューヨーク、セントラル・パークのためのプロジェクト』の記者会見は、そんなちょっと異様な光景の中でスタートした。そして午前10時を過ぎると、ニューヨークのスタジオで待機していたクリストたちとの、ライブでの質疑応答が予定どおり始められた。午前中のそのような時間に開かれたのは、ニューヨークとの時差のためだ。

  このプロジェクトに関する記者会見は、これが日本で初めてのものだったのだが、クリストたちは残念ながら都合がつかず来日できなかったため、電話での質疑応答となったわけだ。通訳を通して伝えられた質問に対する彼らの回答が、こちらで逐次通訳されていったが、回答するクリストとジャンヌ=クロードの話は、ほとんどの場合、長いものになりがちだった。より多くのことをもっと詳しく、日本の私たちに知らせたいということの表れだったのであろう。質疑応答は盛り上がり、予定していた1時間半をオーバーしてもなお、すべての質問を受け付けられないほどだった。

  この記者会見は、翌7日(土)から21日(土)まで、このMDS(ミヤケ・デザイン・スタジオ)ギャラリーで開かれた、『ザ・ゲート・プロジェクト』展に先駆けてとりおこなわれたもの。プロジェクトを紹介し、どういうものになるのか説明するこの展覧会には、クリストによるオリジナル作品(コラージュ、ドローイング)5点に加え、リトグラフ作品5点、ドキュメント写真14点、地図と設計図が展示され、さらに5月にニューヨークのクリストたちのスタジオで収録したばかりの、先のインタビューのヴィデオ継続的に流された

<どういうプロジェクトなのか?>

  『ザ・ゲート・プロジェクト』は、簡単に言ってしまえば、7500本を超えるゲート(門)を、ニューヨークのセントラル・パーク内の遊歩道に設置するというもの。布で梱包したり覆ったりするばかりが、クリストたちのプロジェクトではない。

低い位置に木立の枝などがあって設置が困難な場所以外は、全ての遊歩道に設置され、使われる遊歩道の全長は37qに及ぶ。ゲートの高さは4.9m、幅は遊歩道の幅に合わせて1.8〜5.5m、その上部からはサフラン色の合成繊維製の布地が、地面から約2.1m.の高さまで下げられる。ゲートは3〜5m間隔で設置され、その下をくぐって歩けば、風でたなびく布を仰ぎ見るようになる。さらに、サフラン色の布の連なりを、葉を落とした木々の枝の間をとおして見ることができる、真冬に行う。「それは、芝生から離れて遊歩道を歩きゲートを通り抜ける人々にとって、暖かい影を創り出す金色の天井になり、セントラル・パーク周辺のビルから見ると、葉のない枝の隙間から現れては消える金色の川のように見え、歩道の形を強調するだろう。」(クリストとジャンヌ=クロード) 

 そこに現出する作品は、これまでの彼らのプロジェクト同様、2週間しか存在しない。が、人々が普段通りに公園を利用でき、誰にも影響を及ぼさないで楽しめる体験型プロジェクトだ。

 マンハッタンの中央に位置するセントラル・パークは、屋外劇場、レストラン、数面にも及ぶ野球フィールドとテニスコート、広大な池、そして動物園もある巨大な公園。そびえる摩天楼が林立する中のまさに大都会のオアシス。鬱蒼とした緑が広がる春夏や、紅葉が美しく映える秋はもちろん、立木が枯れ果て殺風景になる冬の間も、散歩やジョギング、そしてサイクリングやピクニックを楽しむ人々が絶えない。この市民たちの憩いの場を使い、すべての人に解放されるこのプロジェクトは、「セントラル・パークの造成に携わったオルムスタッドとヴォルムの2人(造園デザイナー)が構想した表現に沿うものとなるだろう。また、公園の有機的なデザインを強調し、一方で、長方形のゲートの柱は、周囲の建築区画の幾何学的な形式を連想させ、2月中の16日間の展示期間中、セントラル・パークそのものの美と調和することになるだろう。」(クリストとジャンヌ=クロード)
 
<現在進行中プロジェクト>

 『包まれた海岸線』(69年、オーストラリア)、『囲まれた島々』(83年、マイアミ)、『包まれた議会議事堂』(95年、ドイツ)、『包まれたポンヌフ』(85年、フランス)、日本とカリフォルニアを結んでの『アンブレラ』(91年)……など、大規模な野外プロジェクトを世界各地で実現させてきたクリストとジャンヌ=クロードだが、ここ数年は、アメリカ国内の2つのプロジェクトに取り組んできていた。一つは、コロラド川を長大な布で覆っていくプロジェクト、『オーバー・ザ・リバー・プロジェクト』、そしてもう一つが、この、『ザ・ゲート・プロジェクト』だ。実は、昨年の初め頃までは、次に実現するのは、『オーバー・ザ・リバー・プロジェクト』の方だろうと、アーティスト自身も考えていたという。
  
<プロジェクトの実現が本格化・始動>

 それが、昨年1月に就任した、ニューヨークの新市長、マイケル・R.ブルームバーグが、セントラル・パークで約2週間だけ行われるこの芸術作品に理解を示し、支持を公にしたことから、状況が大きく変わっていった。昨年の6月には、セントラル・パークの維持管理にあたる、セントラル・パーク・コンサーバンシー(公園管理協会)の協力の下で、公園内全域の測量を行い、また9月には実物大プロトタイプを使ったテストが行われた。さらに昨年後半から、ニューヨーク市側とクリスト&ジャンヌ=クロード側の弁護士、エンジニアその他が、両者間の契約書の準備に入ったのに続き、それを実現させる許可を出したのである。今年1月には市側と契約書を締結、1月22日にセントラル・パーク内で行われた記者会見で、市長の口から、2005年2月に『ザ・ゲート(門)、ニューヨーク、セントラル・パークのためのプロジェクト』が実現することが発表された。

<ここに至るまでの経緯>

 クリストとジャンヌ=クロードにとっては、98年にスイスで実現した『包まれた木立』以来、7年ぶりのプロジェクトになる『ザ・ゲート・プロジェクト』だが、彼らのこのプロジェクトを構想したのは、約20年前のことである。60年代初めにパリからニューヨークに移り住んだクリストたちだが、この都市の人々が本当によく歩くことに感心したのが、作品の出発点になってもいるという。歩きながら体験するような彼らが、市、公園局などとの交渉を始めたのは79年のことだが、2年後には却下され、それ以降もずっと許可が得られなかった。考えてみれば、ベルリンのライヒスターク(旧ドイツ帝国議会議事堂)を包んだプロジェクトの時ほど物議を醸すものでもないし、人にも動物にも公園内にあるすべての物に影響を及ぼすものではない。その上また、セントラル・パークは、コンサートや屋外彫刻の展示など、日常的に様々な文化活動が行われている公園である。しかし、たとえ歩道部分だけにしても “公園の全域”を使うという点が、(今まで例がなかっただけに)最もネックになっていたようだ。

しかしながら、ブルームバーグ市長が許可を出した背景には、一昨年の「9・11」(同時多発テロ)が少なからず影響していることは確かで、あれ以降落ち込んだムードの市の活性化に一役かってほしいと期待する気持ちもあったに違いない。
          (その2続く) 













ゲート(門)、セントラル・パークのためのプロジェクト』のドローイング (c)Christo















ゲート(門)、セントラル・パークのためのプロジェクト』のドローイング (c)Christo














ゲート(門)、セントラル・パークのためのプロジェクト』のドローイング (c)Christo


今年1月22日に行われた、『ゲート(門)、セントラル・パークの
ためのプロジェクト』記者会見
(中央にブルームバーグ市長、左にクリストとジャンヌ=クロード)
撮影:ウルフガング・フォルツ/Wolfgang Volz


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