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『佐藤有紀展』

                               ギャラリーワークス
埋蔵資源としての生命力
文● 石橋宗明 ISHIBASHI Muneharu
(投稿)

2003年6月9日〜6月28日
GALLERY wks
(ギャラリーワークス)
        大阪市北区西天満3-14-26
中之島ロイヤルハイツ1103
        TEL. 06-63632206
 ごまかしの無い、しっかりとした絵画を描く作家である。画面に無意味な線、汚れが見当たらない。そして何よりもその色彩だ。丹念に塗り込まれた血のような赤からは、あの鉄の臭いが漂ってきそうだ。それは女性的な穏やかさばかりが先走っていた印象を、徐々に変えてゆく。したたかな生命力が、清澄な怒りを伴って滲み出て、画面上で凝固しているかのように見えてきたのである。だとすれば、これもまた、生命を育む者の慈しみに満ちた情動である。少しの時間だったが、作者と話す機会があった。これまでになく明るい色彩を使ったのは、世の中がずっと陰鬱だから、自分の作品だけは変えてみたかったのだという。勿論私は、それを唯の気分転換とは受け取らなかった。近来、作者の精神世界に起きた著しい変化を示すものとして考えてみたのである。

 破壊的なこの現実が、作者に変化を惹き起こしたのである。愚かしい暴力が繰り返され、不安と混沌の度が増す世界情勢や、心の貧弱な者たちが、我が世の春とばかりに猛々しいこの社会、といった事々だ。この有様に心を痛め、大いに抵抗を覚える人々も少なくはない。彼らは、対立する観念を持っているのである。さもなければ無関心でいられるし、同調さえしてしまうだろう。それは成熟した生命力(リビドー)を源とする、普遍的な観念であって、多くの人間が埋蔵資源のように保有している。しかし絶対的なものではない。状況によっては活かされず、また影を潜めてしまうこともあり得る。揺るぎない状態にまで獲得するには、どうすればよいのか、あるいはどの様な過程を経たのか?まずは意識を内面へと傾け、創造的な生命力が息づく内的現実を実感することから始まるのだろう。その内的現実は、生命的な傾向や事柄を好む観念を形成する。これを自らの本質として選び、全人格的な統合へと向かわせる。佐藤有紀の絵画は、内的現実の静謐で力強い隆起の印象を色彩でもって表現したものだ。加えて、かつて自我が、内的現実に由来する観念を価値基準として統合した、その過程を辿ったものとしても見ることが出来るのではないか。

 人間は自らの本質を、創造的な生命力に委ねることも出来るし、破壊と虚無の領域へと傾けることもできる。サルトルの考え方は、人間にはあらかじめ定められた本質は備わっておらず、個々人が本質を獲得しなくてはならないというものだった。本質が無いだけに、どのような生き方でも選べる自由な状態でこの世に来ている。だとすれば、生命の領域か、あるいは死のそれか、どちらに向かうにしても、それも個々人の選択に委ねられているはずだ。しかし私たちは、前者を価値基準に置く生き方が、良き人生となり得ることを知っている。観念として意識に上らせることができるのである。だが、それを本質として獲得するか否かは、自我の積極的な活動の有無に掛かっている。発達期に於いては尚更、実存主義的な補強が必要なのではないかと私は考える。

 21世紀になっても、依然、反生命の勢力は優勢である。だが時期が到来すれば、カンブリア紀に見られた進化の大爆発のような、否応なしの変化を迎え、生命に仕える成熟した社会や文明が実現することだろう。しかし実存的な人間は、それが何時起きるのかとか、可能か否かなどは気にしない。仮にその到来が百年先だと分かったとしても、シニシズムに陥るようなことはない。自分が何者であるのか、如何に生きるのかが重要なのである。最後の一人になったとしても、自分の本質を守り抜くことになるだろう。しかし野蛮が成熟へと至る過渡期に於いては、こうした「変人」によって、惨禍が出来得る限り抑え込まれてゆくのである。そして、反生命の権力者は彼らを忌み嫌うのである。私は、真の藝術家とはそういうものだと考えている。
 


『untitled』100号162x130.3cm



『untitled』130号162x 194cm



『untitled』130号194 x162cm

 3点とも oil  on  canvas
 2003年制作




   会場風景
■さとう ゆき 
略   歴
1970 岡山市に生まれる
1994 大阪教育大学教養芸術学科卒業
1996 京都市立芸術大学大学院美術研究科修了
個  展
1994 大阪/ギャラリー白
1995 大阪/信濃橋画廊
1996 大阪/ギャラリー白
1998 大阪/ギャラリー白
2000 大阪/ギャラリー白
2002 大阪/タピエスタイル
グループ展
1993 「グループ展」      大阪/茶屋町画廊
1994 「new face」      大阪/ギャラリーVIEW
1996 「ペインタリネス」    大阪/ギャラリー白
1998 「ペインタリネス」    大阪/ギャラリー白
1999 「現代美術10人展」   大阪/京阪ギャラリー
2001 「ペインタリネス」    大阪/ギャラリー白
    「ART IN ART JAPAN」 兵庫/姫路市美術館
 

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