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現代美術への視点

 :連続と侵犯 高嶺格




God Bless America

文●石橋宗明
 
ISHIBASHI Muneharu
画商
 
(投稿)

■ 現代美術への視点:連続と侵犯
2002年10月29日〜12月23日
 東京国立近代美術館
2003年1月16日〜3月23日
国立国際美館
  大阪府吹田市千里万博公園10−4
  06−6876−2481
 《出品作家》青木淳、キャンディス・ブレイツ、
遠藤利克、ロラン・フレクスナー、
ロニ・ホーン、イリヤ&エミリア・カバコフ、
中山ダイスケ、ジュリアン・オピー、高嶺格
「God Bless America」
 クレイアニメと油土による
インスタレーション


























「God Bless America」
 クレイアニメと油土による
インスタレーション

 
 クレイ・アニメーション《God Bless America》は、国立国際美術館のテキストによると、「作家がセットの中に寝泊まりしながら18日間かけて撮影したもの」で、「2トンもの粘土と格闘する、大変な肉体労働の」日々だったのだという。作品を見てみると、男女2人での協同作業であることが分かる。その様子はどこか、ジョン・レノンとオノ・ヨーコが、ハネムーン先のホテルで行ったパフォーマンスを彷彿とさせる。

 セットの真中にどっしりと据えられた大きな油土の塊が、目まぐるしく変貌してゆく。強く印象に残っているのは、カリカチュアされたブッシュ大統領の頭部が変貌を重ね、「God bless America My home sweet home」と惚けたように歌ってみせる場面である。セプテンバー11の惨事から立ち直ろうとする人々が口ずさむ愛国歌が、いつしか偏狭さを帯び始めるや、ブッシュの軍勢はアフガニスタンに侵攻した。愚かな過ちの上に、更に間違いを塗り重ね、世界を抜き差しならぬ事態へと向かわせようとする彼らの時代を象徴する歌として、やがて記憶されるのだろう。私はその歴史の評価を、油土の奇妙な歌声に聞くような気がした。

 ところで、同じテキストによると高嶺格は、「この作品は単純なアメリカ批判ではない」と述べている。ことさら反米色を際立たせた作品ではないことは、その内容からも窺える。油土との格闘は、不条理に対する抵抗の試みとして始められる。傲慢さをいや増す米国に対する嫌悪と反撥は、ブッシュ大統領を不条理の象徴として登場させた。この像を解体する作業は偶像破壊と言えそうだが、それはまた、私たちの隷属的な在り方にも矛先が向けられているのである。解体には造り替えが伴う。その生み出された形態の幾つかは、私たちが抱く理想としての米国や、米国人のイメージなのかも知れないが、だとしてもそれに留まるものではない。愛国歌を正体もなく口ずさむのを快しとしなかった米国人、不条理に対して叛旗を翻すであろうそれらの人々との連帯を希求する、そんな気持ちの表れでもある。隷属的な関係を解体してゆくにつれ、今後のあるべき、自由な市民関係が見えてきたのである。

 隷属的であり続けるということは、他国の市民の犠牲を承知の上で、身の安全を図るということに他ならない。実際、イラク攻撃の前夜、その疑義を正そうともしない日本政府の無情がまかり通ってしまった。紛争解決への努力が、蔑ろにされてしまったのである。爆撃に晒された市民にとって、私たちもまた不条理の存在であったに違いない。カミュは、理解することは道徳だと言った※。人間としてのプライドに従った結果、その者は不条理に抵抗する必要を知るのである。だがプライドを省みないのであれば、屈服するしかない。あるいは不条理に加担したり、それを演じたりすることにもなりかねない。この国から不条理の属性を取り払うには、まず私たちが、不条理に加担していることを自覚しなくてはならない。そして「理解する」ことにより、ようやく件の連帯へと繋げてゆくことが出来るのである。

 私たちにはもっと多くの、「理解する」藝術家が必要だということを、最後に付け加えておきたい。彼らの藝術は国防力でもある。軍備の拡張、まして核兵器の保有など不必要かつ邪魔になるだけである。大勢の「人間」が住む国であるということを、世界中に認識させることが肝要なのだ。優雅さに欠け、貪欲で、平均寿命ばかりが延びている人々が住む国、短絡的な暴力と異常者の大活躍が売り物の、映画や漫画が溢れ返る国という印象が定評となれば、最後の一線を越え易くさせるだろう。人格を尊重されている人間が相手だと、破壊を仕掛けるのが難しくもなるものだ。

   ※カミュ著、宮崎嶺雄訳、『ペスト』p.155、新潮文庫、1969

                           (2003.5.6掲載)
■ たかみね ただす
  1968年 鹿児島県生れ
  1990年 京都市立芸術大学卒業
  1992年 愛の資料館(ヴォイスギャラリー、京都)
  1993年 YKK(大阪現代美術センター、大阪)
  ダムタイプのパフォーマーとして参加を始める。
  1994年 ワンダフル・ライフ(横浜ガレリア、神奈川)
      12 functions(ギャラリーマロニエ、京都)
      大アート展(ラフォーレ原宿、東京)
  1996年 パイロット・ファーム(アートスペース虹、京都)
  1999年 岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー卒業
  2000年 個展(ヴォイスギャラリー、京都)
  等、個展、グループ展、パフォーマンスを国内外で多数行う。 

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