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山口輝昭展


山口 輝昭・ まあるいおしりの成長率

文●瀬川 美妃 Miki Segawa 会社員
  (投稿)
■山口輝昭展
2003年1月18日―2月28日
KAWAGUCHI ART FACTORY フロントギャラリー
(日本金属鋳造工業鞄焉j
埼玉県川口市元郷2−15−26
048−222−2369、090−3080−4234

 現在、男と女は、一緒に関係を築くことができるのでしょうか。あるいはその方法を知らないのでしょうか。そんなことを考えていたとき、ふと目に止まったのが山口輝昭くんの作品です。
 木と鉄。粗さと細やかさの中間。男と女の感覚の共有。多忙とゆとりの間・・。
これらの間を自由に行き来する芸術家。その芽生えを感じます。
 彼の造る女性像のおしりが私を惹きつけるのです。おしりがふっくらとまあるいところが好きです。この世で一番偉大な職業とは、母親ではないかという思いを、私は再確認しました。
今回の展示作品「チャリ様」も、おしりがすこやかで、おおらかです。
「あっけにとられたときの人」H36×W30×D25
樟 2003年
 私は学生時代、共同浴場で女の子のお尻をたくさん見ました。留学生の欧米の女の子のお尻は、高さがあります。日本人の女の子のお尻は、ぽわんとしています。
 山口くんの作品のおしりも、ぽわんとしています。
 以前見た作品「リップグロス」は、お尻を突き出すように椅子に腰掛けた女性でした。「チャリ様」と同様、ヒールのある靴を履いていました。山口くんは、ハイヒールとは「男から見て不思議なもの」だと言います。脚を美しく見せる、ヒールのある靴は女の子には必須アイテムです。自分の足に合わないと、外反母趾になったりして、大変な思いもしますが。

 「チャリ様」の頭の上には五重塔のようなねじがついています。鉄の棒が突き刺さっていて、鎖がぶらさがっています。車輪までついています。
 山口くんは、まず頭と、胴体と、脚を造りたかったのです。そこに鉄でいろいろくっつけてみたのは、「対照的で面白いかなと思ったから」だといいます。この作品はとても大きいのですが、木材の身体の部分と、鉄の車輪や棒の部分が、お互いに支えあっています。そこで初めてこの像が立つというわけです。
しかし私には不自由な女性に見えます。「あなたがいるからうまく動けないじゃないのよう!」という声がします。その声の主に対する、山口くんの畏怖の念も見えます。(「チャリ嬢」や「チャリ子」ではなく、「チャリ様」というのですから。)
 当初から山口くんの作品に私が感じていたものは、二人を支配し、また結びつける深い沈黙でした。しかし彼女は自由な空間で生き始めようとしています。彼女は景色の中を、通りぬけていきます。誰にも捕らえられることなく。そんな彼女の目の前に、彼女についてすべてを知らない彼がいる。一組のカップルとは、なぜこうも不可思議なものなのでしょう。
 もちろん、二人を結びつけるこの最初の沈黙、心地よい暗黙は、すぐさま彼らを呑み込む罠へと変わるでしょう。このことは新作「あっけにとられたときの人」が物語っています。「去年は後厄で・・・」と言う彼の、声にも出ない「はあっ」というため息が伝わります。沈潜する内面を支える穏やかな表現に、山口輝昭くんは踏み出したところです。
「チャリ様」H270×W120×D180
木・鉄・石膏 2002年

 常に山口輝昭くんの作品に付き添う、彼女の存在。そして、山口くんの作品について語ると称しながら、自分について語っている私がいます。山口くんの作品が、働きかけ、揺り動かすのは、私たち一人一人の、極めて個人的な領域です。人に恋することの素晴らしさを、孤独の中の芸術性に閉じ込めてしまわないためにも、彼の作品から受ける、感動というより動揺ともいえるこの気持ちを、そのまま人に伝えようとするとき、私は自らの内面をさらけだしてしまうのかもしれません。


 私が「チャリ様」について言えることはこれで総てです。付記を少し加えることにします。
 先日、埼玉県川口駅西口の公園に置かれていた、子供の銅像が盗まれたというニュースをテレビで見ました。取り去られた子供の像の後ろには母親と父親の像がありました。
 今回の展示会場は川口駅の東口からバスで数分のところにある、金属鋳造の工場内に設けられています。展示スペースの隅にあるテーブルの上には、人の顔の小さな焼き物も置いてありました。小学校の通学路にある為、小さな来訪者のことも考えてのおもてなし。
 すぐれた美術作品とは、個人性と社会性が出会う場所であることは、山口輝昭くんの作品とて例外ではありえません。

(2003.3.14掲載)
■ やまぐち てるあき
1977年 栃木県生まれ 2000年 宇都宮大学教育学部卒業 筑波大学大学院芸術研究科入学
筑波大学学生展覧会「彫塑展」 第54回 二紀展入選 2001年 第55回 二紀展 二紀賞
2002年 同大学院 修了 第6回春紀二紀展 新人選抜大賞 
第6回那須野ヶ原国際彫刻シンポジウム2002 in 大田原招待作家 栃木県芸術祭 彫刻部 準芸術祭賞
こうばで、びじゅつ。Art in Factory 2002展 出品
現在、筑波大学大学院芸術研究科 研究生 二紀会 同人

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